研究実施計画に記した本年度の研究内容は以下の通りである。 1.現代政治哲学およびこれを援用した教育理論を収集し、それら諸理論を導出した「方法論」を抽出・類型化、その対立構造や問題点を明らかにする。 2.以上明らかにされた対立や問題点のうち代表的(象徴的)なものを取り上げ、申請者の提示したメタ方法論によって解消されうるか検証する。 そこでまず、現代政治哲学の諸理論を精査した上、典型的なアプローチ(方法)を次の3つに類型化した。(1)ロールズ、ドゥウォーキン、ノージックらに代表される「道徳・義務論的アプローチ」。(2)テイラー、サンデルらに代表される「状態・事実論的アプローチ」。(3)ローティ、ウォルツァーらに代表される「プラグマティックなアプローチ」。その上で、これらアプローチのいずれもが、とりわけ認識論的観点から原理的問題を抱えていること、およびそれゆえに諸理論間の対立が不可避であることを論証した。すなわち、(1)は何らかの道徳・義務を超越項化することは不可能であるという点、(2)も同様に、われわれの置かれた状態・事実を一義的に決定することが不可能であるという点、また(3)は、認識論的には妥当だがその都度の「よい」を判断する方法を持ち合わせていないという点において、いずれも方法論としての原理的問題を抱えていることを論証した。 そこで報告者は、かねてより提示していた教育学メタ方法論を、「教育・社会構想のためのメタ方法論」として再構築、そのアプローチを「欲望論的アプローチ」と呼び、上記3つに対する原理的優位性を論証する研究を行った。このことにより、現代教育哲学が依拠する現代政治哲学が抱える対立や齟齬のアポリアを解消し、教育・社会構想のための最も根本的な土台(考え方)を整えることができるようになったと考えている。
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