研究概要 |
本研究では、ヒドロインダセン骨格を有する縮環型立体保護基(Rind基)にヘテロ子原(N,O,S,Se)を導入してかさ高い単座配位子を新たに設計・開発した。これらを補助配位子としてもちいて、0.5倍当量のFeCl_2(THF)_<1.5>およびFe[N(SiMe_3)_2]_2を反応させることにより、新規な二配位構造の鉄二価錯体を系統的に合成した。一連の鉄錯体は安定に合成、単離することができ、鉄に配位する元素の違いにより、鉄まわりの構造と磁気的性質は大きく変化した。カルコゲン元素(O,S,Se)の場合、Feまわりの結合角は145~163゜に屈曲しており、SQUIDおよびメスバウアー分光から鉄は4.2Kにおいて常磁性状態を示した。一方、窒素原子を配位子に導入した場合には、N-Fe-N結合角は完全な直線構造となり、外部磁場(1T)挿引下、4.2Kにおいておよそ56Tの極めて強い鉄の内部磁場を発現することがメスバウアー分光により明らかとなった。このように磁気秩序の発現と鉄まわりの直線性との間には強い相関があり、この磁気秩序はミュオンスピン緩和法をもちいた測定の結果、短距離秩序状態であることもわかった。 また、このかさ高い単座窒素配位子と1倍当量のFeCl_2(THF)_<1.5>を反応させたところ、塩素原子で架橋した配位不飽和な鉄二核錯体が生成した。続いてKHBEt_3を作用させたところ、ヒドリド架橋鉄1価錯体が新たに得られた。この錯体の分子構造はX線結晶構造解析により決定した。Rind基のフェニル基の1つが鉄とη^6-型に配位しており、Rind基の柔軟な配位様式が鉄まわりの電子欠損性と鉄1価の特異な酸化状態を効果的に安定化することが明らかとなった。
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