研究概要 |
オウム目は堅果食適応することで南半球を中心に繁栄を遂げた鳥類系統である。オウム類特有の顎筋群の創出機構を探るため、オカメインコ(オウム目)とニワトリ・ウズラ(キジ目)の一連のステージの胚標本間で筋マーカー遺伝子(MyoD)、骨格マーカー遺伝子(Sox9,Runx2)、筋結合組織マーカー遺伝子(Scx、Six2)、筋骨格系の形成に関わるとされるシグナル経路の構成遺伝子(Tgfβ2,Bmp4,Fgf8)の発現パターンの比較を行った。オウム類に特有な顎筋の一つに下顎内側と眼窩間中隔を結ぶ節骨下顎筋があるが、オカメインコではこの筋が母体である翼状筋群より分化するステージ30以前の胚で、神経堤細胞由来の間葉で発現するTgfβ2とBmp4の異所的な発現が観察された。これらのシグナル分子の発現パターン変化が下流に位置するScxなどの発現パターンにも影響を与え、新奇な顎筋を誘導したと推察された。オウム類に特有なもう一つの顎筋が下顎外側から頬骨の外側を通過し眼窩の下縁部に達する擬咬筋であるが、この筋の上端部には結合組織の凝集がみられ、それは擬咬筋の分化に先立って頬骨の外側背側領域に現れる。オカメインコ胚ではまだ擬咬筋が形成されていないステージの頬骨外側背側領域にSix2を発現する特異な細胞群が認められた。これらの細胞群はキジ目に属するニワトリ・ウズラ胚の相当領域では確認することができなかった。Six2は神経堤細胞に由来し、のちに靱帯や腱などの結合組織に分化する細胞群で発現することが先行研究でも知られている。以上の結果から、オウム類特有の顎筋は神経堤細胞の発生プログラムを大規模に改変することで創出されたことが示唆された。
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