研究概要 |
A型インフルエンザウイルスは表面に存在するヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の抗原型により複数の亜型に分類される.HAは宿主細胞表面のシアル酸と結合し,エンドソーム中におけるpH変化に応答して構造変化を起こし,ウイルスエンベロープと宿主細胞膜の融合における中心的な役割を担う.HAには16種の亜型が存在しており,なかでも高病原性鳥インフルエンザのH5,2009年パンデミックのH1,今年度の流行の主体となったH3などが有名である. 近年,幅広いHA亜型を認識する抗HA抗体が得られ,そのHA阻害機構は新たな抗インフルエンザ戦略を示唆するとして注目されている.本研究では新規に作成された複数のHA亜型ウイルスを中和するマウス由来抗HA単クローン抗体S139/1による複数のHA認識機構についてその複合体の結晶構造を基に解析し,抗原抗体複合体の相互作用解析と併せて,ウイルスの膜融合機構におけるHAの機能について新たな知見を得ることを目的としている. 研究開始に先立ち,H3N2(Aichi)株ウイルス由来HAをウイルス粒子より精製する系を確立した.本年度はこの系を用いてHAを精製し,結晶化用試料として調製した.S139/1はパパイン処理によりFab断片として調製,精製を行った.HAとS139/1-Fabを混合して複合体を作成し,ゲル濾過クロマトグラフィーにより複合体を精製して結晶化スクリーニングを行った.その結果ポリエチレングルコールを沈殿剤として結晶が得られ,高エネルギー加速器研究機構PF, SPring-8において回折実験を実施した.得られたデータより結晶構造を解析した結果,結晶中にはHAしか存在していなかった.これは結晶化の過程でS139/1-FabがHAと解離したことが原因と考えられた.現在pHを6-8.5の範囲に絞り,温和な条件での結晶化が可能な条件の検討を行っている.
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