研究概要 |
マンガン曝露によってパーキンソン病に類似した症状を呈することが報告されている。一方、通常のパーキンソン病患者においても、鉄やマンガンが脳内へ異常蓄積することがあるとの報告がある。これまで、脳神経細胞におけるマンガン輸送については鉄輸送体のdivalent metal transporter 1(DMT1)およびトランスフェリン受容体の関与しか検討されていない。われわれはこれまでに、亜鉛輸送体ファミリーZrt-, Irt-related protein(ZIP)のうち、ZIP8およびZIP14がMn^<2+>輸送に関与していることを見出している。そこで本研究では、神経細胞におけるZIP8およびZIP14の発現とMn^<2+>輸送への関与を検討した。細胞は、SH-SY5Y細胞(ヒト神経芽細胞腫)およびHT22(マウス海馬細胞)を用いた。SH-SY5Y細胞およびHT22細胞における金属輸送体の発現をRT-PCR法で調べた結果、ZIP8, ZIP14およびDMT1の発現が確認できた。これまでに、SH-SY5Y細胞におけるMn^<2+>取り込みにDMT1が関与していることが報告されている。そこでSH-SY5Y細胞に、DMT1 siRNAを導入してDMT1の発現を抑制すると、Mn^<2+>取り込み効率はコントロールに比べて顕著に低下した。しかし、Cd^<2+>およびZn^<2+>取り込み効率は変化しなかった。次に、ZIP8 siRNAを導入してZIP8の発現を抑制した。しかし、Mn^<2+>, Cd^<2+>,およびZn^<2+>の取り込み効率はコントロールと比較して変化しなかった。一方、ZIP14 siRNAを導入してZIP14の発現を抑制すると、Mn^<2+>およびCd^<2+>取り込み効率はコントロールの半分以下にまで低下した。しかし、Zn^<2+>取り込み効率は変化しなかった。またHT22細胞を用いた実験においても、SH-SY5Y細胞と同様にZIP8を発現抑制してもMn^<2+>, Cd^<2+>,およびZn^<2+>取り込み効率は変化せず、ZIP14を発現抑制するとMn^<2+>およびCd^<2+>取り込み効率は低下した。以上の結果からSH-SY5Y,およびHT22細胞のいずれにおいてもZIP14の発現を抑制すると、Mn^<2+>取り込み効率は低下することが明らかになった。よって神経細胞では、DMT1のみならず、ZIP14がマンガン輸送に重要な役割を果たしている新たな可能性が示唆された。
|