研究概要 |
ヒトマラリアである熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum,Pf)のCSPは、肝臓への侵入に必須なタンパク質である。CSPを認識する2A10mAbは、原虫の肝臓への侵入をブロックし、感染を阻止できることが明らかな唯一のエフェクター分子である。 本研究では、マラリアを媒介しない組換え蚊の作製を目的として、2A10mAbの一本鎖抗体(scFv)を発現する組換え蚊を作製し、伝播阻止能力を検証した。また、本研究ではマウスを用いてヒトに対する効果を評価できるように、マラリア感染実験にはマウスマラリア原虫(P.berghei,Pb)の内在性のPbCSPをPfCSPに置換した組換えマウスマラリア原虫(PfCSP/Pb)を用いた。 はじめに、2A10mAbをもとにscFvを構築し、組換えscFvタンパク質を合成した。組換えscFvタンパク質は2A10mAbと同様にPfCSPに対して高い特異性を持っていた。さらに、HepG2細胞を用いたin virto感染実験における組換えscFvタンパク質の侵入阻害率は95%であった。これは、2A10mAbと同等の高い効果であった。そこで、scFv遺伝子をゲノム中に組込んだ組換え蚊を作出した。この組換え蚊が発現するDsRed融合scFvタンパク質もPfCSPを標的として認識できることを確かめた。最後に、この組換え蚊がマラリアを媒介するか調べた。PfCSP/Pb原虫感染組換え蚊に吸血された正常マウスがマラリアに感染するかどうか調べたところ(バイティングチャレンジ)、野生型蚊のコントロールではマラリア感染率が83.3%だったのに対して、組換え蚊では25%と有意に感染率が低かった。 本研究では、熱帯熱マラリアの伝播を約7割ブロックできる組換え蚊を作出することに成功した。
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