研究課題
若手研究(B)
これまで我々は、癌抑制遺伝子であるPTENの表皮におけるホモ欠質は、ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)経路を活性化させることにより、皮膚扁平上皮癌を発生させることを報告した。また、最近の準備実験において、PI3Kのp110γ触媒サブユニット(p110γ)が、この機序に深く関与する所見を得ている。しかし、本研究を遂行する上で不可欠なPTENホモ欠損が、遺伝的背景の純化に伴い生後まもなく死亡するため、これ以上の詳細な解析が困難であった。そこで、昨年度までに、長期観察が可能なマウスを作成することを目標として、発癌物質に対する感受性の低いC57BL/6マウスから、感受性の高いFVB/Nマウスへと交配を重ねて第5世代(F5)まで遺伝子背景を変換した。さらに本年度は、これらのマウスを交配し、FVB/Nマウスへの遺伝子背景を持つPTENホモ欠損マウス、p110γホモ欠損マウス、PTENホモ欠損かつp11Oγホモ欠損マウスの作成を繰り返し試みた。しかし残念ながら、FVB/Nマウス遺伝子背景においても、PTENホモ欠損マウスの生存率は著しく低く、実験を開始するのに十分は個体数が確保できなかった。そのため、計画を一部修正し、PTENヘテロ欠損マウス、p110γホモ欠損マウス、PTENヘテロ欠損かつp110γホモ欠損マウスを用いて実験を遂行することとした。現時点ではPTENヘテロ欠損マウスとP11Oγホモ欠損マウスは十分な個体数が確保され、近日中にPTENヘテロ欠損かつP110γホモ欠損マウスも得られる見込みである。来年度は、これらのマウスにおける細胞増殖能、アポトーシス抵抗性、シグナル伝達分子の相互作用、腫瘍の発生頻度や選択的阻害剤の効果などの生物学的特性を解析する予定である。これら一連の研究は、皮膚扁平上皮癌の進展過程におけるp110γの動的役割を解明するのに寄与するものと期待される。