研究概要 |
統合失調症の生物学的基盤を分子レベルで明らかにする上で、患者由来組織の解析は最も直接的なアプローチであることから、これまでに統合失調症患者死後脳を用いた解析が行われてきた。しかし、死後脳サンプルは死後時間、死因によるpHの変化、死後脳サンプルの凍結融解など考慮すべき点が多く、また、長期にわたる薬物療法、喫煙、薬物乱用のため死後脳の変化が疾患による一次的なものか、薬物による二次的変化なのかを明らかにすることが困難であり注意深い結果の解釈を要求されていた。 近年、山中らによりヒト線維芽細胞から人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPSC)が作製できることが報告され(Takahashi et al.Cell 2007,Park et al.Cell 2008)、この作成技術を用いた疾患特異的iPSCの解析は新たな研究リソースとして注目されている。我々は、統合失調症患者5例,健常対照者2例の線維芽細胞よりiPS細胞の樹立に成功した。 iPSCコロニーの品質評価としてRetrovirusによって導入された遺伝子(Oct3/4,Sox2,Klf4,c-Myc)のサイレンシングの確認。Teratoma形成。Embryoid body(EB)の形成率、未分化マーカー(NANOG、SSEA1、TRA-1-60等)の発現の確認、さらにNeurosphere-based culture system(Okada et al.2008)を用いてneurosoheareの形成効率、RT-PCRによる神経系マーカー(SOX1,NCAM)の発現量、コロニーのmorphologyをもとに各サンプル6クローンずつの解析に用いるクローンを選択した。患者由来細胞と対照群由来iPSCから選択した各クローンからDopamine NeuronなどProjection Neuronや、Interneuronへの分化誘導を行った。今後、これらの細胞を用いてマイクロアレイ解析、メタボローム解析、患者由来細胞内における酸化ストレス反応性・抗精神病薬反応性の検討等を行う。
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