研究概要 |
EGFR変異有無によるヒト非小細胞肺癌細胞の放射線照射による細胞遊走能の変化とTKI(ゲフィチニブ)併用による、細胞遊走の抑制効果の検討した。 EGFR遺伝子の異なるヒト非小細胞肺癌由来の細胞株(A549;wild type, HCC827;mutant type)に、X線照射とゲフィチニブを併用し、wound healing assay法で放射線線量依存性、薬剤投与量依存性、両者併用による変化を検証し、HCC827ではゲフィチニブを併用した群で有意に遊走の抑制を確認した。Westernblot法では遊走に関連のあるMAPK系シグナルタンパクとしてERKの発現を確認し、遊走抑制が認められたHCC827ゲフィチニブ投与群で発現低下を認めた。変化の認められたHCC827のみ遊走能の変化を時間的経過で観察したところ48時間以後では、細胞の遊走抑制だけでなく、細胞の接着低下を認めた。接着能の抑制、または細胞死の関与が考えられ、遊走因子以外の検討をした。ゲフィチにブ投与下でのHCC827の生存を確認するためWST-1法を用いた。24時間では変化を認めず、3日、7日経過で生存の低下を認めた。Westernblot法ではA549, HCC827に対してcPARPを確認した。照射後2時間のHCC827はcPARPの発現増加を確認できたが、A549では明らかではなかった。TUNEL染色による細胞死の変化は24、48、72時間と時間的経過で有意な違いは認められなかった。 今回のこの結果から、ゲフィチニブはEGFR遺伝子変異のある細胞には遊走能シグナル系を抑制し、早期に遊走および接着能を低下させていた。細胞内の変化として、早期にアポトーシス反応を示すが、細胞死となり形態変化として認められるのに3日以上は要していた。今回の早期の遊走能低下は細胞死効果よりも、遊走シグナルの抑制が強く関与していると考えられた。EGFR変異のない細胞では効果が乏しく、変異があるものに限り顕著な効果が認められ、選択的効果が期待できると考える。正常細胞への影響を最小限にできると期待される。遊走抑制効果が早期に認められる点から、早期の浸潤や転移抑制、予防に有用な効果となる可能性が示唆されるが、その検証は今後の課題である。
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