研究概要 |
近年、日本での前立腺癌の増加は著しい。その疫学的背景に高脂肪食や肥満が前立腺癌の発症や進展に関与していることを示唆する基礎的、臨床的データは多いが、その分子生物学的なメカニズムは未だ明らかではない。高脂肪食によってIGF-1、FGF、EGFなどの細胞増殖因子の発現の増強、それに伴うPI3K、ERKなどシグナル伝達経路の異常活性化が前立腺癌の進展に寄与するという説が注目を浴びている(Kalaany NY et al, Nature, 2009)が、詳細に関してはまだ十分な検討がなされていない。高脂肪食による複雑な生理因子のネットワークが前立腺癌の発症、進展における役割を分子レベルで解明することは、前立腺がんの治療、予防につながる標的分子を明らかにする上で重要である。 我々は前立腺癌細胞株xenograftモデルを用いて高脂肪食が前立腺癌増殖を促進することを証明し、その際、網羅的遺伝子発現解析により、成長因子、サイトカインを介したIGF-IGFIR, TWEAK-Fn14等のシグナル伝達経路の受容体が前立腺癌増殖時に高発現していることを報告した(Narita S et al, Prostate, 2008)。 本研究で、我々は初めて前立腺癌細胞、前立腺癌モデルマウス、さらにヒト前立腺癌組織を用いて前立腺癌の増殖、浸潤、apoptosisにおけるFn14の役割を明らかにした。Fn14, TWEAK発現は、ホルモン応答性前立腺癌細胞株LNCaP細胞に低発現、ホルモン不応性前立腺癌細胞株PC-3, DU145細胞に高発現していた。rTWEAK刺激によって、PC-3細胞のFn14発現が時間依存的、濃度依存的に増強された。Fn14 siRNA, rTWEAKによる機能解析によって、TWEAK-Fn14シグナルがPC-3, DU145細胞の浸潤能、遊走能を制御していることが確認された。また、Fn14の発現は、PC-3, DU145細胞のapoptosisに関連していることが示された。さらに、Fn14安定高発現PC-3/Fn14細胞はPC-3/Mock細胞より増殖能が有意に亢進した。Fn14 siRNA処理したPC-3細胞は、Control siRNA処理したPC-3細胞よりMMP-9の遺伝子発現、活性化MMP-9の産生が有意に低下した。一方、rTWEAK刺激によって、PC-3細胞は、MMP-9の遺伝子発現、活性化MMP-9の産生が有意に亢進した。PC-3/Fn14細胞はPC-3細胞に比較し、4倍くらいの浸潤能を示し、またMMP-9特異的な阻害剤の処理によって浸潤能が有意に低下した。PC-3/Fn14 Xenograftは、PC-3/Mock Xenograftより有意に大きく、またFn14, MMP-9の発現も有意に亢進していた。癌細胞の横隔膜浸潤モデルの解析では、PC-3/Fn14は、PC-3/Mockに比べて有意に高い浸潤能を示した。112例の前立腺癌全摘標本におけるFn14の解析では、Fn14高発現群(12例、10.7%)では、中発現(61例、54.5%)、低発現(39例、34.8%)より非再発生存期間が有意に短かった。 今回の研究で、Fn14はホルモン不応性前立腺癌癌細胞に高発現しており、またFn14の発現はMMP-9の発現を制御し、前立腺癌細胞の増殖、浸潤に重要であることが明らかになった。さらに、臨床検体の検討ではFn14の発現は前立腺癌患者の予後に関礪する可能性が示唆された。Fn14は前立腺癌の増殖、浸潤に重要であり、前立腺癌の治療のターゲットになる可能性がある。
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