2000年から2002年に、広島・長崎放射線影響研究所において行った原爆被爆者の白内障調査(対象者873名)において、水晶体後嚢下混濁と皮質混濁には、被曝線量との有意な正の相関があることが明らかになった。しかしそのような水晶体混濁の進行の速度が、被爆線量と関連があるかどうかは未だ検討されていない。また、過去に放射線誘発白内障の報告はいくつかあるが、放射線障害の時間に伴う線量依存的な進行があるかどうかについての報告はない。前回調査開始から約9年が経過したため、前回の白内障調査対象者に対し再び同様の方法で白内障調査を行うことによって、水晶体混濁の経時的変化量と被曝線量との関係を調べることが可能であると考えた。そのため、まず平成22年度は、前回の白内障調査対象者に対して、広島・長崎放射線影響研究所で、再度白内障調査を行うこととした。水晶体混濁の判定は、研究協力者である広島大学・長崎大学病院眼科の白内障調査担当医が、臨床に基づいた方法である水晶体混濁分類システムII (LOCS II)を用いて前回調査と同様に行った。さらに、水晶体の状態は、やはり前回の白内障調査の時と同様に、全てデジタル画像で保管した。また、水晶体混濁の程度判定に迷うケースがあるため、半年に1回のペースで、広島・長崎の眼科調査担当医全員で集まり、同一の患者さんに対して、全員で水晶体混濁の程度を判定し、判定方法の協議を行う標準化を行った。調査は現時点で進行継続中であり、平成23年度も引き続き行う。全対象者の調査が終了した時点で、データの解析を行う予定である。
|