研究概要 |
申請者らの研究グループは,環境酸素濃度を変化させた培養系を用い,角膜上皮細胞の密着結合の裏打ち蛋白質としてバリアーの構築に必須なZO-1 (zonula occludens-1)の発現が,低酸素状態によってmRNA,蛋白質のレベルで低下することをで明らかにしてきた。今回の研究では低酸素状態によって低下する角膜上皮細胞のバリアーおよびバリアー構築に関わる因子に対して,細胞内信号伝達系などの動きを見出し,角膜上皮のバリアー機能の修復に関与するメカニズムを明らかにすることである。 方法はSV40を導入したヒト角膜上皮細胞を5%CO2,95%空気(21%O2に相当)で継代培養後,異なる酸素濃度(1,21,60%)のインキュベーターで培養した。細胞溶解液をBioplexサスペンションアレイシステムを用いてをスクリーニングし,調節因子の同定を試みた。その結果,低酸素状態でMAPキナーゼ系の活性化の減少が再現された。さらにMAPキナーゼファミリーの解析を行い,p44/42,JNK,ERK5のリン酸化が低酸素状態により減少することが明らかとなった。また,密着結合を構成する蛋白質のうち,ZO-1に加えclaudin5も低酸素状態によって減少することが明らかとなった。さらに低酸素状態により,転写因子の一つであるHypoxia Inducible factor-1 (HIF-1)の発現が増加することが明らかとなり,HIF-1が密着結合蛋白質の発現の調節に関わっているのかについて,研究を進めていく予定である。 コンタクトレンズ装用による感染性角膜炎の発症に低酸素状態による角膜の生体反応が関わっているか否かを明らかにするため,アカントアメーバ症例のおける感染危険因子について解析した。このデータは将来の角膜に対する治療薬の開発の基盤となる情報を提供することとなり臨床的にも重要な意義があると考えられる。
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