研究概要 |
皮弁移植術後の予後は,皮弁の血流に左右される。皮弁の血流改善には薬剤による皮弁壊死予防がある。その薬剤として種々のものがあるが,現時点では満足できるものはない。血流改善の効果が期待されるものにボツリヌス毒がある。ボツリヌス毒は神経筋接合部に作用して筋弛緩をもたらすが,その作用の他に血管攣縮予防,血管拡張作用も報告されている。この薬剤を皮弁の血流改善に利用できるか検討することが本研究の目的である。 ラットの背側皮弁を用いて,皮弁の血行動態の評価を行った。さらにボツリヌス毒注入群とコントロール群で,皮弁の生着域,血管の状態の比較を行った。皮弁の生着域の測定および,血管造影による血管の状態の評価を行い,コントロール群とボツリヌス毒注入群での比較を行った。生着域の測定は画像解析ソフトを用いた。 今回の実験ではボツリヌス群とコントロール群で有意な差は認めなかった。定性的にはボツリヌス群が皮弁の生着領域の増大および血管撮影での血管の太さの増大を認めたが,定量的には有意差を認めなかった。 原因としては,皮弁デザインおよび皮弁作成時の手技の問題,ボツリヌス毒注入の手技の問題,ボツリヌス毒の濃度の問題など様々なものが考えられた。 ボツリヌス毒素は血管平滑筋に作用し,血管の拡張に寄与すること,また血流の改善を来すという基礎的研究の報告があり,理論上,それが皮弁の血流改善,生着域,生着率の改善につながるはずである。今回の実験モデルでは再現性に欠けるものがあったので,実験モデルの再検討をすることで,本実験の仮説が立証されるものと思われる。 ボツリヌス毒は,以前は文字通り毒であり,医療とはかけ離れたものであったが,近年その有効性が認識され,眼瞼痙攣や美容で適応されてきている薬剤である。今後皮弁の血流改善での有用性が証明されれば,ますますニーズの高い薬剤となると考えられる。
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