研究概要 |
骨浸潤,骨破壊はしばしば口腔悪性腫瘍において認められ,治療法の選択,手術範囲の決定因子となり,そして予後を左右する負の要因となっている。申請者等はこれまで癌細胞が産生する増殖因子が破骨細胞前駆細胞におけるmTOR (mammalian target of rapamycin)の活性化を誘導すること,mTORシグナルを選択的に阻害することで破骨細胞形成が抑制されることを見いだした。またmTORシグナルは口腔扁平上皮癌の増殖・生存に関与することが報告されている(Amornphimoltham P., et al. Cnacer Res. 2005)。しかしながら癌骨破壊巣におけるmTOR生存シグナルの生物学的な重要性はいまだ明らかにされておらず,そのメカニズムは全く不明である。したがって,癌骨破壊巣における生存シグナルの役割を解明し,新たな骨破壊の予防およびその治療法を確立することを目的に本研究を行った。 培養細胞は,ヒト口腔扁平上皮癌細胞株HSC-2,破骨細胞前駆細胞株RAW264.7,骨髄間質細胞ST2を使用した。癌骨破壊病変モデルは,6週齢BALB/C系マウス大腿骨内へHSC-2を移植し作製した。破骨細胞分化は,酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ染色にて,骨吸収活性はcarbonated calcium phosphateコートプレートを用いて検討した。mTORシグナル阻害には,mTOR新規選択的阻害剤Temsirolimusを使用した。 TemsirolimusはHSC-2皮下移植モデルにおける腫瘍増殖を抑制するだけでなく,HSC-2大腿骨内移植モデルにおいても,骨内での腫瘍増殖,破骨細胞数を抑制した。Temsirolimusは,RAW264.7のRANKL添加による破骨細胞誘導,破骨細胞吸収活性,ST2におけるRANKL発現を抑制した。 本研究結果は,mTORシグナルが癌骨破壊に関わる重要な因子であり,口腔扁平上皮癌顎骨浸潤に対して標的となる可能性が示唆された。
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