研究概要 |
ヒトは,運動にともなって時々刻々と変化する自らの身体状態(あるいは身体像)を,脳内で内的に推定していると考えられる.このような内的な身体表象は,自己の運動指令や多種の感覚フィードバック情報を統合することにより,脳内で動的かつ統一的に保持や更新がなされる必要がある.本研究では,このようなヒト脳内の身体像を明らかにするため,ヒトの非侵襲脳機能計測法である脳磁図(MEG),および機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)を使って,ヒトが運動を行っている際の脳活動を解析した.MEGとfMRIを組み合わせることで,時空間的に詳細な分析が可能である.本年度では,まず単純な手の運動を使って実験を行った.具体的に被験者には,スクリーン上に提示されたターゲットに対して,腕を使ったポインティング運動を行ってもらった.そして,その際の脳活動を計測し,運動実行時および運動前の準備段階での活動から,運動の方向を予測することを試みた.また,視覚座標系(スクリーンのターゲット位置)と運動座標系(手の運動方向)とを実験的に分離するため,被験者の腕を90度回転させた状態で同様の運動を行ってもらい,脳活動から予測された運動方向に対する影響を検討した.予備的結果から,脳部位に応じて異なる座標系(視覚と運動)の関与を明らかにすることができた.今後,これらの座標系がどのように動的に統合されて身体像が形成され,自己の運動制御,さらには他者の動作認知へと利用されているのかを検討する予定である.
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