研究概要 |
(1)言語・身体表現に関する文献調査・検討,(2)予備データおよび収録データのエスノグラフィックな観察と得られた知見の文字化手法への反映,(3)収録データの文字化手法・ラベリング手法の構築,以上の3点を中心に研究を進めた.(1)の検討は音声言語・手話言語の両方の研究にあたった.先行研究の議論の中では参与者が視線によって発話の宛先(受け手が誰なのか)を示しているだけでなく,次の話し手として話し始めるにあたって他の参与者の視線が必要とされていることが指摘されているが,手話会話においては参与者の視線がきわめて強い指向性を持ち,見られていない発話が文字通り独り言として無効化され,相互行為連鎖に組み込まれないことがある.収録データの観察では,ろう者と聴者との間で起こる会話においても,こういった先行研究の知見が確認された.また,身体の向き(腰の前面の向き)も強い指向性を持つ表現として用いられているが,手話の場合は身体の前方空間が言語表現産出のために利用されるため,話しかける相手のいる方向に,その都度手指だけでなく身体ごと向け直す振る舞いが観察された.すなわち,手話会話における話し手・受け手・傍参与者という参与枠組は,主として視線・身体の向きによって強く示され,また参与者の認知にも大きく影響している可能性が示唆された.したがって,データの文字化を進めるにあたり,手指表現(手指の動作)だけではなく,視線(頭部動作含む)および身体の向きを含めたマルチモーダルなアノテーションを付与することが重要であることがわかった.これらの知見を元に(3)文字化手法・ラベリング手法を,手指動作(右手・左手),視線,頭部動作,身体の向きの4つを取り入れたアノテーション作業・文字化作業の手続きによって定義し,これの作業手順書を作成した.
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