研究課題
研究活動スタート支援
本研究では、生物種間の共進化的軍拡競走によって生物の形質が急速に進化する過程を分子遺伝学の手法を用いて理解することを目的として、野外調査と分子生物学実験を行った。ツバキシギゾウムシ(Curculio camelliae)の幼虫はヤブツバキ(Camellia japonica)の種子を食べて育つ。このゾウムシの雌成虫は極端に長い口吻でツバキ果実の果皮を穿孔し、その穿孔に産卵管を挿し込むことで中の種子に産卵する。先行研究で行った室内実験の結果から、このゾウムシの口吻長とツバキの果皮の厚さの両方が、ゾウムシによる穿孔の成功率を左右することが明らかになり、この2つの形質の間で、軍拡競走が起こる可能性が示唆されている。このツバキシギゾウムシとヤブツバキの系において、軍拡競走の背後で自然選択受けている遺伝子を特定し、集団遺伝学的な解析を行うことで、過去に起こった進化的変化の過程を理解することができると考えられる。本研究ではまず、軍拡競走の進行程度の異なるヤブツバキの個体群のそれぞれにおいて、成長期におけるツバキ果実を採集し、RNA解析用の果皮のサンプルを採取した。果皮の成長期(5~6月)と成長完了期(5~6月)のそれぞれの時期に複数地点で採取されたサンプルをもとに、RNA抽出を行った。その上で、共同研究者の協力を得て、現在、Super SAGE法による発現遺伝子プロファイリング・データを得た。また、シギゾウムシ幼虫の頭部標本をもとに、RNA抽出を行い、ツバキと同様にSuper SAGE解析にかけた。このような遺伝子発現データをもとに、個体群間の比較を行うことで、ツバキの果皮の厚さの個体群差や、ゾウムシ口吻長の個体群差の基盤となっている遺伝子座を特定することができると期待される。
すべて 2011
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Evolution
巻: 65
The American Naturalist
Ecological Research
巻: 26 ページ: 239-251