研究概要 |
今年度は,VUVCD分光法を分子動力学法(MD)やBioinformatics技術等の計算科学と組み合わせることで,アミロイド線維の構造解析や生体膜と結合した蛋白質の構造解析に応用した。 (1)β_2-microglobulinペプチドのアミロイド線維の構造解析:アミロイド化したβ_2-microglobulin(β_2-m)の断片ペプチド(β_2-m_<21-29>)の構造を,VUVCDとGromacsを使用し解析した。β_2-m_<21-29>は,β-sheet構造特有のVUVCDスペクトルを示したが,二次構造解析からは,実測スペクトルは再現できず,二次構造以外のCD成分の存在が示唆された。これは,β_2-m_<21-29>スペクトルに側鎖由来のCDが大きく寄与するという昨年度のMDとCD理論から得られた結果を支持していた。また,ジスルフィド結合の有無及びsheet間の平行や逆平行・芳香族残基側鎖の環境を考慮し,β_2-m_<21-29>アミロイド線維構造をシミュレート(20ns)した結果,実測スペクトルに近い理論CDを得ることに成功した。 (2)膜により誘起された蛋白質の溶液構造解析:天然変性蛋白質であるミエリン塩基性蛋白質(MBP)の生体膜存在下・非存在下でのVUVCDスペクトル測定を行い,MBPが生体膜との相互作用によりヘリックスリッチなスペクトルを示すことを確認した。また,VUVCD-NN法によるアミノ酸配列レベルでの二次構造解析から,生体膜相互作用により起こる構造変化を明確にした。現在,分子動力学を用いた構造解析の準備段階にある。 これらの結果は、VUVCD・分子動力学・CD理論の組み合せ法が,これまで解析が困難であったアミロイド線維等の構造解析に有効であることを示し,またこの手法が,生体膜と結合した蛋白質の構造解析にも応用できることを示している。
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