研究概要 |
世界の化石燃料燃焼に伴うCO2の排出量は,IPCCが予想する最悪ケースのシナリオに沿って増えているにもかかわらず,CO2を排出し続ける世界の大国の取り組みは遅れているのが現状である。待ったなしの対策が求められる今,自分の生活が環境に与える影響について,一人ひとり生活行為を問い直すことが強く求められている。本研究では,天保の大飢饉の際,高野長英が著した「勧農備荒二物考」の「二物」である「そば」と「じゃがいも」を切り口とし,生活レベルで伝統文化や環境問題を考えてきた家庭科から,持続可能な発展に関わる諸問題を学際的かつ総合的に扱うESDへのアプローチを試みた。 具体的には,そばやじゃがいもの消費の多いロシアを訪問,食文化を中心に取材し資料の充実を図った。また,対象クラスの生徒が,学級園とその周辺の荒地の開墾から始め,畑作り(1アール程度)を行い,じゃがいも,だいこん,にんじんなどたくさんの野菜を植え収穫した後,調理性,歴史的側面,品質変化の原理などを体験的に理解させながら,新鮮野菜の調理や乾燥保存食づくり行った。そばの栽培は行わなかったが,ロシアから持ち帰ったそばの実を通して,ロシアでのそばの活用法を提示し,粉の挽き方や保存性についても考えさせた。じゃがいもやだいこんは,細切りにし天日乾燥させたり,たくあん作りに発展させた。 食品乾燥操作は,食品に貯蔵性や輸送性を付与する目的で大昔の人々が生活の知恵の中から生み出した技術であり,天日・風・寒気などの自然条件を利用して行われることから,乾燥保存食を取り上げることは自然循環を理解するのに非常に適している。今回の一連の授業を通して,乾燥保存食が人と自然との共生の中で生まれたものであることを共感的に理解させるとともに,自然を上手に利用する方法を追求させ,持続可能な社会をめざし,今自分にできることを考えさせることができた。
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