研究概要 |
湿地帯に群生しているヨシが枯死した場合,そのまま倒伏し土壌へ堆積する.湿地帯は閉鎖性水域に近い状態であるため,堆積したヨシが腐敗し水環境の汚濁へ影響を与えることが懸念されている.本研究では,ヨシが群生している湿地帯のヨシ,土壌及び土壌間隙水の無機金属元素及び脂肪酸組成分析を行い,湿地帯土壌におけるヨシの堆積状況を評価した. 調査地点は,宮城県伊豆沼地区,北上川河口域,福島県裏磐梯地区の3地域とした. 土壌間隙水の成分を比較すると,北上川河口域でNa,Mg,Kが有意に高い値を示した.特にNaとMgは他の地点に比べて50~150倍高い値を示した.北上川河口域は河口から2kmの地点であり,潮の満ち引きにより海水が流入してくるため,無機元素濃度が顕著に高かった. 伊豆沼,北上川,裏磐梯地区における土壌の脂肪酸含有量は各々,2.6mg/g,1.9mg/g,4.2mg/gであったが,比較対象の土壌の脂肪酸含有量は平均0.059mg/gであり,土壌の脂肪酸含有量に有意な差があった.また,ヨシ原の土壌には比較対象の土壌より植物由来の脂肪酸である16:0,18:0,18:1ω9c,18:2ω6c,18:3ω3が約10倍多く含まれていた.北上川河口域の土壌は他の2地点より,植物由来の脂肪酸含有量が顕著に低かった. ヨシ原の土壌には植物由来の脂肪酸が多く含まれていることから,枯死したヨシが土壌に堆積していることが明らかになった.北上川河口域で植物由来脂肪酸含有量が低かった要因として,周辺環境が影響していると考えられる.伊豆沼及び裏磐梯地区の湿地帯は止水性環境であったが,北上川河口域は流水環境であった.従って,枯死したヨシが倒伏した場合でも,水流によって流されるため,土壌に含まれるヨシ由来の脂肪酸量が少なかったと考えられる.今後は,堆積したヨシの分解過程の評価と空間的拡散状況を定量化する予定である.
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