研究概要 |
現在わが国では,遊休桑園などの耕作放棄地の増加による農地の荒廃が深刻化している。一方,桑葉は高栄養でかつ牛に対する嗜好性が良好であり,飼料木として有望である。近年,桑葉には抗血糖成分である1-デオキシノジリマイシン(DNJ)が豊富に含まれることが分かってきた。本研究では,泌乳牛に桑葉を給与し,血中および乳中DNJ含量の変化を追跡した。 東北大学大学院農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センターで管理されている桑樹のうち,DNJを多く含む「かんまさり」「はやてさかり」「島ノ内」の新鮮桑葉を,同センターのホルスタイン種搾乳牛3頭(510-594 kg BW)に給与した。DNJのヒトへの投与試験では体重10kgあたりDNJ 1mg以上で薬効を示すこと,および桑葉中DNJ含量が0.1%(乾物中)であることをもとに供試牛への給与量を求めると,桑葉新鮮物で200-240g/頭/日となる。本研究では,DNJが牛乳中に十分量検出される条件にするため,その10倍量を7月5日から5日間給与した。桑葉給与開始直前(0時間),桑葉給与開始後8,56および104時間に採血と採乳を行い,DNJおよびその誘導体の含量をLC-MS/MS法で測定した。 試験期間中.供試牛は給与桑葉のほぼすべてを摂取した。血漿中DNJは桑葉給与後8時間に3頭すべてから,56および104時間には1頭からそれぞれ検出されたが,0.7-3.7ng/mLとごく微量であった。また,DNJ誘導体であるGal-DNJおよびFagomineはほとんど検出されなかった。桑葉含有DNJは,ウシ体内で消化吸収される過程でルーメン微生物等の作用により分解されている可能性がある。一方,乳中からはDNJおよびその誘導体と思われる物質が検出されたが,桑葉給与前にも検出されていることから,今後詳細な分析により物質を特定する必要がある。
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