研究課題
奨励研究
経口投与された薬物の生物学的利用能を決定する因子には主に、消化管上皮細胞を介した膜透過性と小腸および肝臓での安定性・代謝が挙げられる。消化管上皮細胞膜を介した膜輸送は、薬物の脂溶性に従う単純拡散によって支配され、イオン型薬物の場合には、pH分配仮説による膜透過が進行する。しかし、本仮説に従わない例も見受けられ、その理由の一つとしてトランスポーターを介した選択的な膜輸送の存在が挙げられる。薬物の中には、これらのトランスポーターを介する輸送が生物学的利用能を規定しているものもあり、特に消化管管腔へ異物を排出するトランスポーターであるP-糖タンパク質(P-gp)や乳がん耐性たんぱく質(Breast Cancer Resistance Protein, BCRP)は、脳、肝臓、腎臓、小腸をはじめ様々な正常組織で薬物の排泄や移行性を制御することが報告されている。エルロチニブは、細胞の増殖や成長を制御する上皮成長因子受容体(EGFR)の活性化を阻害する分子標的薬である。これまでにエルロチニブは、P-gpやBCRPの基質であることが示唆されており、P-gpの阻害剤であるセファランチンがエルロチニブに与える影響について検討した。まず、P-gpが恒常的に発現しているヒト腸管上皮細胞であるCaco-2細胞を用い、MTT法によりCaco-2細胞に対するセファランチンの最大無毒性濃度を求めたところ、セファランチンは、濃度に依存的に細胞増殖を抑制し、その最大無毒性濃度は1.7μg/mLであった。次に、エルロチニブに対するセファランチンの併用効果を調べたところ、大きな差は認められなかった。エルロチニブは、p-gpやBCRPの基質になることが知られているが、その他のトランスポーターの基質になる可能性があるため、エルロチニブを含む選択培地でヒト非小細胞肺がんA549細胞株を培養し耐性株を単離し解析を行った。その結果、エルロチニブ耐性細胞において、ABCC3(MRP3)の発現亢進が認められた。これまでにエルロチニブがMRP3の基質になる報告はなく、その詳細について現在解析中である。
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Journal of Molecular Neuroscience
巻: 42 ページ: 341-348