研究目的 RET-He(網赤血球1個当たりのヘモグロビン量)は、ごく短期間の鉄欠乏で速やかに低下する、鉄欠乏の最も鋭敏な指標である。RET-Heは、血球数と同時に自動測定されるため、迅速かつ安価という利点がある。自己血貯血は同種輸血を避けるため、患者自身の血液を術前に採取・保存し手術時に用いるものであるが、貯血後予想外に貧血が進行することがあり、鉄の補充不足が主原因と考えられている。自己血貯血の安全性向上を目的として、自己血貯血におけるRET-He測定の有用性を検討した。 研究方法 RET-HeはRETマスタ搭載XE-2100にて測定し、健常者1392例(内訳男性419名:22~64歳女性973名:17~62歳)にて再現性の評価・安定性・基準範囲の算出を行った。自己血貯血患者48例および鉄欠乏性貧血患者13例を対象にRET-He・ヘモグロビン濃度(Hb)、血清鉄・フェリチンを測定し解析した。 研究成果 RET-Heの基礎評価は同時再現性が1.27~1.74%と良好で24時間後まで安定性が確認された。また、健常参考値は男性が32.3-38.8pg、女性が27.0-38.3pgであった。RET-HeとTSATの関連を解析したところ良好な相関がみられ、さらに鉄欠乏性貧血診断のROC解析の結果、RET-Heが最も優れた指標となった。自己血貯血前後の比較において、貯血前のHbが正常であるため鉄剤の補充をしない群では貯血後に貧血が進行する場合とそうでない場合に分かれ、前者の貯血前のRET-Heは低く、後者はある程度保たれていた。また、鉄剤補充のある群でも、貯血前のRET-Heが極端に低い場合は貯血後さらに貧血が進行した。このことより貯血前のRET-He低値例はすでに鉄欠乏状態にあり、この場合Hb10g/dL以上であればRET-Heをフォローしつつ鉄剤補充療法を行い自己血貯血を行うべきであることが示唆された。さらにRET-He低値かつHb10g/dL以下の場合は自己血貯血を中止すべきである。以上をまとめると、RET-Heは信頼性・利便性・迅速性に優れた安価な鉄欠乏性貧血診断指標であることが判明した。さらにRET-He測定により、自己血貯血における鉄剤補充の有無の判定や自己血貯血中止の決定等安全性向上が期待できることが判明した。
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