研究課題/領域番号 |
22H00018
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分3:歴史学、考古学、博物館学およびその関連分野
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
塚本 明 三重大学, 人文学部, 教授 (40217279)
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研究分担者 |
石川 亮太 立命館大学, 経営学部, 教授 (00363416)
東 幸代 滋賀県立大学, 人間文化学部, 教授 (10315921)
藤川 美代子 南山大学, 人文学部, 准教授 (10749550)
若松 正志 京都産業大学, 文化学部, 教授 (20230922)
立川 陽仁 三重大学, 人文学部, 教授 (20397508)
麓 慎一 佛教大学, 歴史学部, 教授 (30261259)
松田 睦彦 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (40554415)
藤田 明良 天理大学, 国際学部, 教授 (50309514)
磯本 宏紀 徳島県立博物館, その他部局等, 専門学芸員 (50372230)
小暮 修三 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (60554912)
村上 友章 流通科学大学, 経済学部, 准教授 (80463313)
堀内 義隆 三重大学, 人文学部, 教授 (90550492)
齋藤 典子 東洋大学, 人間科学総合研究所, 客員研究員 (20714223)
王 昊凡 中部大学, 人文学部, 講師 (20806955)
吉村 真衣 三重大学, 人文学部, 講師 (40837316)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
41,730千円 (直接経費: 32,100千円、間接経費: 9,630千円)
2024年度: 8,840千円 (直接経費: 6,800千円、間接経費: 2,040千円)
2023年度: 8,840千円 (直接経費: 6,800千円、間接経費: 2,040千円)
2022年度: 10,660千円 (直接経費: 8,200千円、間接経費: 2,460千円)
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キーワード | 海藻 / 近代東アジア / 漁業 / 商品流通 / 消費 / 海女 / ワカメ / コンブ / 伊豆 / 三国 / 台湾 / テングサ / ヒジキ / 藻場 / 寒天 / 志摩 |
研究開始時の研究の概要 |
19世紀以降の東アジア世界で生じた海藻の生産、加工・流通、消費をめぐる構造変化の実態を明らかにするために、歴史学、社会学・人類学・民俗学、水産学の研究者による学際的共同研究を行う。文献・古文書資料の検討とともに、海藻漁が盛んな国内各地及び韓国の釜山、済州島、台湾等の実地調査により、総合的なアプローチを試みる。多分野の研究者による議論により、海藻文化の総体の把握を目指す。
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研究実績の概要 |
共同調査・研究会を計6回開催し、研究情報や課題の共有を図ると共に、専門分野を越えて意見交換を行った。 6月3、4日に東京海洋大学で「海藻の研究史」をテーマに、第1回共同研究会を開催した。岡村金太郎、伊谷以知二郎を始めとする近代以降の海藻研究の歴史について、水産分野の研究者の協力も得て、詳しく学ぶ機会となった。12月9、10日の第4回研究会では「コンブの生産と流通」を課題に研究会を開き、第6回(2024年3月26~28日)は徳島市、鳴門市、阿南市において、ワカメの養殖・加工の歴史と現在について共同調査を行った。昨年度来、古文書や聞き取りの調査を行ってきた下田市須崎において7月28~31日に漁業権と関わる祭礼行事を実見し、漁業者や水産研究所の関係者に海の実態と海藻の生態についてお話を伺い、多くの知見を得た(第2回研究会)。須崎の古文書調査に関しては、海藻に関わる江戸期の古文書を中心に史料集(その一)を編纂した。昨年度に課題とした日本海側の調査拠点づくりについて、第5回研究会として2024年2月16~18日に坂井市三国で古文書を中心とする調査を行った。海外調査では、第3回研究会として前年度にこれまでの調査成果を検討した台湾東北角(基隆市他)に赴き、テングサの漁や加工・販売従事者への聞き取りを行い、八斗子漁村文化館の許焜山館長と学術交流をした。この他、個別に北海道のコンブ文化調査、秋田県男鹿で開催された海藻サミットへの参加、伊勢市東大淀町の海藻加工業者への聞き取り、志摩漁村の古文書調査、『大日本水産会誌』中の海藻関係記事DB化(約330件)など、多様な活動を行った。 総じて今年度は、海藻の研究史を把握し、海藻流通・消費のなかで大きな比重を占めるコンブとワカメについて研究会を開催し、日本海側の調査拠点を得、下田市須崎での海藻関係史料集を編むなど、多くの成果をあげることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初はテングサを中心に、フノリ、ヒジキを含めて日本と朝鮮半島との関係を射程に共同研究を開始したが、比較対照のためコンブやワカメなど他の海藻を含めて検討することにより、エリアも課題も大きく広がることになった。 コンブについては、中国やロシア(旧ソビエト)との厳しい国際関係の緊張のなかでの流通構造、特にドイツ商人らも含む広域的な取引が存在したこと、また幕末期以降に大量のコンブが中国に向けて輸出された要因について、強く意識するようになっている。中国で深刻であった甲状腺障害にコンブのヨード分が効くため、中国側の需要が高かったとの説が流布しているが、その妥当性や流通ルートのさらなる解明が課題である。特に薩摩藩の密貿易の拠点である琉球(沖縄)の役割と、中継地に過ぎないにもかかわらず、沖縄でコンブ食文化が定着・発展した因果関係についても、関心が払われた。ワカメをめぐっては、1970年代以降に発達した養殖物と天然物との異同、また保存法として素干し以外に湯通し塩蔵、灰(炭)干しという手法が並立しており、それぞれの長短所をめぐり議論がなされた。特に海藻の味、色をめぐる「ブランド化」が焦点となっている。ワカメも韓国や中国での養殖栽培と日本向けの輸出増大により国際流通構造が変動し、生産構造にも影響が及んでいるようである。台湾での調査のなかでも、海藻の流通が他の食品、また魚介類とも異なることが、改めて注目された。地域による伝統的な海藻文化の相違についても、総合研究開始以来意識してきたが、日本海側の拠点を得たことで、その異相がより顕在化している。 以上のように、海藻文化の多様性と複雑さが当初の想定より大きいことが明確になり、特に海藻ごとの違いからひとくくりに扱えぬ難しさに直面している。だが、その複雑さのままにその魅力を表現できるよう、来年度以降に議論のとりまとめを図っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに引き続き、今年度も少なくとも5回の共同調査・研究会を実施する。そのうち1回は海外で行い、国際的な学術交流を図る。 年度を通して、海藻漁の主要な担い手である各地の海女に対して、磯焼けが深刻な海の現状、海藻の採取と加工方法の歴史と現在などについて聞き取り調査を行う。研究会の開催と合わせて行うほか、11月頃に鳥羽・志摩で開催予定の海女サミットや個別の調査時の機会などを利用する。 7月末から8月上旬にかけて伊勢市東大淀町周辺で実施予定のフノリ加工について、参与観察を試みる。これは文化庁、東京文化財研究所、フノリ加工・取引業者である福井県の大脇商店との連携事業で、文化財修復用の板フノリ確保を目指すものであるが、海藻の加工、工業的利用という観点から作業に参加し、観察記録を残す。昨年度までの下田市須崎における古文書調査の成果をふまえ、磯場の歴史的な漁業権と海藻流通の請負人をめぐり、近世漁業史の研究者を招いての研究会を開催する。明治期の海女出漁や、現代に至るまで海藻の流通を通して日本と関係の深い韓国・全羅南道(木浦、莞島など)で、海藻漁及び海藻加工の様相を調査し、同時に韓国側の研究者との学術交流を図る。第2回韓日海女フォーラムに参画することも、検討している。このほか、鳥羽・神島町のアラメ漁の調査、日本海側(佐渡など)のエゴノリ文化の調査・研究、沖縄の海藻漁とコンブ食文化の歴史調査、海藻食文化について家政学の専門家を招いての研究会なども、現在検討・調整中である(一部は来年度に回す予定)。 本総合研究も3年目となるため、最終年度の論文集刊行に向けて、今年度末には各自の論文構想を集約する。特に、主に取り上げる海藻の種類、対象とするエリアと時期、生産・加工・流通・消費のどの段階を中心に論じるか等を整理し、論文集全体の構成を検討する。
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