研究課題/領域番号 |
22H00020
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分3:歴史学、考古学、博物館学およびその関連分野
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
高橋 龍三郎 早稲田大学, 文学学術院, 名誉教授 (80163301)
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研究分担者 |
植月 学 帝京大学, 付置研究所, 准教授 (00308149)
米田 穣 東京大学, 総合研究博物館, 教授 (30280712)
近藤 修 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (40244347)
藤田 尚 金沢大学, 古代文明・文化資源学研究所, 客員教授 (40278007)
太田 博樹 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40401228)
池谷 信之 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 特任教授 (80596106)
中門 亮太 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (60612033)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
40,300千円 (直接経費: 31,000千円、間接経費: 9,300千円)
2024年度: 8,840千円 (直接経費: 6,800千円、間接経費: 2,040千円)
2023年度: 8,320千円 (直接経費: 6,400千円、間接経費: 1,920千円)
2022年度: 13,260千円 (直接経費: 10,200千円、間接経費: 3,060千円)
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キーワード | ゲノム解析 / 同位体分析 / 人口動態 / 動物骨 / 氏族制社会と物流 / 内耳骨迷路 / 黒曜石産地分析 / 古病理学 / トーテミズム / 民族誌研究 / 古病理・形質人類学 / 双系制社会 / DNA分析 / 内耳器官形態 / 蛍光X線分析 / 動物考古学 / 氏族制社会 / 縄文人骨 / 自然科学分析 |
研究開始時の研究の概要 |
考古学課題の研究とゲノム解析、同位体分析、人骨の形質的研究の文理融合型研究であることが大きな特徴である。したがって進捗状況や進め方に違いが予想され、両分野の齟齬に繋がることが無いよう注意したい。4年間のうち、考古学とゲノム解析では、共通の認識のもとにデータを収集し理解する必要があるので、密接な関係の下に研究を進める。特に人骨資料の考古学上の位置づけや解釈については考古学からの提言を行い、それに矛盾や問題点がないかを常にチェックしたい。最初の2年間半で基礎的データを集約し、残りの1年半で課題に対する明確な解答を用意したい。それらの成果はシンポジウムや雑誌論文等で公開していく予定である。
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研究実績の概要 |
代表者の高橋は、中期環状集落の構造分析を行い、双分制に基づく半族構造で、双系出自(非単系出自)の可能性を世界の民族誌から探り、北米北西海岸の3000年前のハイダ族例(Cybalski2010)、また南米アマゾンのアピナエ族(Das Matta1982)の双分的、非単系出自の親族構造が縄文中期の構造に近似する点を見出した。それが後期の単系出自に逢着する道筋を検討した。ゲノム解析では太田が市原市縄文後期の西広貝塚、菊間手永遺跡、祇園原貝塚などの全ゲノムデータからミトコンドリアゲノム(mtDNA)データを抽出し、mtDNA全長配列にもとづく母系の人口動態を推定した。また草刈貝塚の廃屋墓出土の人骨群でもディープな解析を進めている。動物遺体の分析および同位体分析では、加曽利貝塚、向台貝塚などの動物骨(イノシシ、イヌ)を中心に、植月の動物骨データと同調的に米田がSr同位体の解析を進め、併せて千葉県域の植物のSr同位体地図を製作した。埋葬されたイヌと散乱骨のイヌとでは食餌が異なっている可能性を明らかにした。これは狩猟犬としての実態以外に、社会的な扱いの違いを反映する可能性が浮上し、高橋のトーテミズム論を補強するデータになりうる。 近藤は市川市権現原貝塚の集骨資料の内耳骨迷路の形態分析を進め、CTデータの収集に努めた。側頭骨のマイクロCT撮影を行い、内耳骨迷路形態の3次元画像を取得するなどほぼ方法論を確立した。 池谷信之は、縄文時代後期に生じた黒曜石流通の変化と社会構造の関係を検討するための基礎作業を継続した。後期では原産地を異にする黒曜石が複雑に入り組んだ地域性をなし4つの原産地が入り組み合う複雑な分布状況を確認した。藤田は縄文時代の古人口モデル構築のために平均寿命や死亡年齢を解明する手法の確立に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高橋が社会変動のモデル構築の原点に据えた考古学事実は、中期環状集落の廃屋墓の非単系的、双分的出自のあり方で、トーテムクランなどが後期に出現するにあたり、その社会的基盤をなすのが中期後半期(加曽利E式期)のプロト・トーテミズムであると考えられる。トリ、イノシシの動物形突起や(人間と同等の)丁寧な埋葬、食餌などから追及している。動物骨の同位体分析では向台貝塚土坑検出のイノシシ幼獣2体が人と同じ食餌で育てられ供犠された実態が米田穣の研究で明らかにされた。他の同時期遺跡でも同等のことが他の動物でも起こっているのかの検討している。そのために千葉県域の植物のSr同位体地図を作成し具体的に加曽利貝塚動物骨の分析を進めている。それを基に植月の動物骨分析のデータを共有しながら、米田はイヌなどの遺体を調査した。 太田博樹を中心に草刈廃屋墓人骨のDNA分析も順調に進展している。市原市の後期遺跡人骨のDNA分析では西広貝塚等の成果に加えて菊間手永遺跡人骨の分析が進み、墓域形成に母系制の家族的原理が働いた可能性を見出した。これについてはさらに検討を進めている。近藤修は市川市の権現原貝塚の人骨群の内耳骨迷路の形態研究から遺伝性の特徴を明らかにしつつある。 黒曜石や土器などの交易、伝播経路に中期から後期への変革が見られるので、池谷信之は蛍光X線分析により産地同定を進め、中期と後期の交易の在り方に大きな相違を認めている。藤田尚は縄文人口に大きな影響を与えた寄生虫などの古病理学的検討を進めている。 高橋は縄文中期の双分的、双系的出自社会から後期の単系出自社会への変動に注目し、それを世界の民族誌から類似例を洗い出している。これからのゲノム解析の結果を社会的に解釈できるようにするためである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの各分野の研究は概ね順調に進展している。縄文中期社会から後期社会への変動については、高橋の変動モデルを検討するために、高橋は考古データの分析を進めると同時に、中南米、北米、東南アジアの民族誌調査をさらに強化する計画である。それは今後明らかにされるDNA分析の成果に対応するためである。 実際の人骨群のDNA分析では草刈貝塚202号廃屋墓、228号廃屋墓、516号廃屋墓の人骨群の解析を進める計画である。また菊間手永遺跡後期墓域の人骨群のmtDNA分析を進め、遺跡内および西広貝塚、祇園原貝塚資料との遺伝的関係を明らかにする。市川市権現原貝塚人骨のDNA分析、内耳骨迷路の分析も進める計画である。これらはいずれも千葉県域の縄文人の出自形態、婚姻の在り方を解き明かすためである。今まで市原市を中心とする地域に限定されていたが、市川市を含めて拡大し、より広域な婚姻の実態を明らかにする。 植月は貝塚出土の動物骨を分析し経済的資源の実態を明らかにすると同時に、米田の同位体分析等によって明らかにされるイヌ、イノシシなどの人と同じ扱いの事例を加味して、トーテム社会の成立について検討する。米田も植物Sr同位体地図を完成して具体的資料の分析に入る。 また後期の千葉県域に広く普遍化した姻戚関係とクラン間の文化的、社会的行為の特殊性、異動を明らかにするために、遺構・遺物の内容に踏み込んで儀礼的・祭祀的様相を分析する。トーテムクランによって儀礼や祭祀などの違いが予想されるからである。また黒曜石や土器の交易に見られる交易路の変革について、それを後期の氏族制の成立以前と以後に分けて違いを検討する。藤田は社会変動要因について古病理学の見地から人口動態、死亡立、平均寿命から検討する。
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