研究課題/領域番号 |
22H00022
|
研究種目 |
基盤研究(A)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分3:歴史学、考古学、博物館学およびその関連分野
|
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
鷹取 祐司 立命館大学, 文学部, 教授 (60434700)
|
研究分担者 |
浦 蓉子 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 研究員 (80746553)
星野 安治 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 室長 (50644481)
山口 欧志 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 研究員 (50508364)
籾山 明 公益財団法人東洋文庫, 研究部, 研究員 (70174357)
宗 周太郎 大谷大学, 文学部, 助教 (20979140)
畑野 吉則 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 助教 (50835478)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
39,520千円 (直接経費: 30,400千円、間接経費: 9,120千円)
2024年度: 7,540千円 (直接経費: 5,800千円、間接経費: 1,740千円)
2023年度: 9,100千円 (直接経費: 7,000千円、間接経費: 2,100千円)
2022年度: 6,630千円 (直接経費: 5,100千円、間接経費: 1,530千円)
|
キーワード | 中国古代史 / 簡牘学 / 古文書学 / 三次元形態解析 / 木質文化財 / 中国簡牘 / 木簡 / 文書行政 / 年輪年代学 |
研究開始時の研究の概要 |
中国古代帝国は簡牘を使った文書行政により中央集権的国家体制を構築した。簡牘は、記載内容だけでなく形状や加工・使用の痕跡等の「形態情報」も含め総体的に分析することが重要であるが、形態情報を分析する有効な手法は未だ確立されていない。 そこで本研究は、この簡牘に内在する形態情報を研究資料とすべく、三次元形態解析技術を活用して古文書学・考古学・年輪年代学の知見を融合する研究基盤を形成すると共に、簡牘の三次元研究資源化を推進し簡牘研究のプラットフォーム構築を目指す。 本研究は簡牘という資料体に内在する行政制度の多様な実態を顕在化させるものであり、中国古代史の研究に新たな視座を提示するものと考える。
|
研究実績の概要 |
令和5年度は以下の3項目を中心に研究を遂行した。 (A)簡牘の形態分析に適した三次元計測・解析手法の確立:令和4年度に実現した、簡牘の三次元モデル構築手法に改良を加え、①人間の手による半自動計測・解析、②撮影装置による全自動計測・解析をそれぞれ向上させた。①は、撮影>データの解析機への転送>SfMによる解析にいたる過程を自動化した。この自動化により、撮影と同時並行での三次元計測が可能となり、文化財の着実かつ迅速な計測を実現した。②は、既に市販されている機器を用いた深度合成用自動撮影と高速深度合成プログラムの技術を応用した。また、一度の操作で360度の画像を取得すべくCT等で用いられている回転Gantry機構を採用し、画像取得作業の全自動化を実現した。この成果は、連携プロジェクトと共同でPR TIMESにてプレスリリースした。加えて①②の研究・開発の成果を、文化財科学会第40回大会で発表をした。 (B)中国簡牘の形態観察の定形化:令和4年度より継続している簡牘の形態観察の検討会に、研究グループ外の研究者を招聘し、有力なレビューを得た。そして、簡牘形態の観察所見を研究者間で共有・活用するための観察手順、記録フォーマットを策定し、文化財科学会第40回大会でその成果を発表した。 (C)簡牘の年輪計測による同一材の判定:日本木簡の研究に用いられている当該手法が、中国簡牘にも応用できるかを試験的に検討した。簡牘所蔵機関提供のデジタル画像に基づき年輪を計測したところ、画像解像度の不足、年輪に対して正対していない等の問題はあったが、中国簡牘についても、年輪幅の計測による同一材の検討が概ね可能であると確認した。 上記のほか、中国簡牘の所蔵機関との緊密な連携により、令和6年度前半に、本研究課題の手法をプレゼンテーションする機会を得ることとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(A)自動撮影・解析装置の開発については、当該装置を文化財科学会第40回大会の企業展示ブースで実機展示し、フォトグラメトリの専門家・企業から一定の評価を得ることができた。操作性・迅速性については概ね良好であるが、その一方で、研究レベルでの三次元データの精確性においては、やや不十分と言わざるを得ない。当初計画では、今年度中の実用化を目指していたが、次年度も継続して改良を加える必要がある。 (B)簡牘の形態観察については、文化財科学会第40回大会の発表で、一定の評価を得られた。さらにその議論で、遺物観察の定形化という視点は、簡牘だけではなく、紙をはじめとする異なる材質の資料体においても、強く求められていると認識できたことは想定外の収穫であった。 このように、本研究課題の研究志向・手法において根幹となる(A)(B)研究の成果を、全国学会やプレスリリースの形で広く発信できたことは、重要な成果であると考える。とくに、(A)①人間の手による半自動計測・解析の自動化の実現により、脆弱性遺物である簡牘の三次元データ化において、安全性・迅速性・簡便性を確保できた点は、当該分野において波及性の高い成果と認識している。その一方で、(A)②自動撮影装置が実用化に至らないため、三次元研究データの生成が遅れている点は、早急に対応しなければならない。 以上を総合すると、研究全体では着実に遂行できてはいるものの、一部に遅れが生じているため、やや遅れていると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、本課題の基礎的な技術・手法の確立が概ね完了した。次年度以降は、これらの基礎的な研究をもとに、中国簡牘の所蔵機関との共同研究の段階に入る予定である。具体的には、以下の方針で研究を遂行する。 (A)自動撮影・解析装置の実用化を早期に完了し、中国簡牘の所蔵機関と共同で、研究レベルでの利活用を念頭に、三次元簡牘データの仕様を協議する必要がある。また、三次元データをもとに、資料体表面の多様な情報を数値的に定量評価する研究に着手する。具体的には、電子顕微鏡を用いた超高精細な断面プロファイル表出手法を参考にし、三次元データから表面情報を数値化する手法を確立する。 (B)簡牘の形態観察においては、簡牘の加工痕跡を多面的に検討するため、それに対応する加工具・文房具について考察する。可能であれば、三次元データを作成し、データ上で加工痕跡と加工具を対照することが望ましいと考える。 令和5年度の試験的な検討により、中国簡牘についても応用可能であることが確認された(C)簡牘の年輪計測による同一材判定の研究は、当該分野において新規性の高い研究手法である。複数の中国簡牘所蔵機関と連携体制を構築し、複数の簡牘資料群のサンプルデータ取得が望ましい。とくに、旧来研究で冊書として推定復元されている資料群について集中的にデータを取得し、木材の観点から科学的検証をおこなう。 以上(A)~(C)の多面的な解析・分析により、簡牘に内在する多様な資料体情報を顕在化させ、研究資料として活用する手法を中国簡牘の研究機関に提示する。
|