研究課題/領域番号 |
22H00034
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分4:地理学、文化人類学、民俗学およびその関連分野
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
東長 靖 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 教授 (70217462)
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研究分担者 |
赤堀 雅幸 上智大学, 総合グローバル学部, 教授 (20270530)
高尾 賢一郎 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (20785480)
井上 あえか 就実大学, 人文科学部, 教授 (30388988)
新井 和広 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 教授 (60397007)
ダヌシュマン イドリス 立命館大学, 国際関係学部, 准教授 (70631919)
久志本 裕子 上智大学, 総合グローバル学部, 准教授 (70834349)
山根 聡 大阪大学, 大学院人文学研究科(外国学専攻、日本学専攻), 教授 (80283836)
三沢 伸生 東洋大学, 社会学部, 教授 (80328640)
岡本 正明 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 教授 (90372549)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
36,920千円 (直接経費: 28,400千円、間接経費: 8,520千円)
2024年度: 10,010千円 (直接経費: 7,700千円、間接経費: 2,310千円)
2023年度: 7,280千円 (直接経費: 5,600千円、間接経費: 1,680千円)
2022年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
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キーワード | 穏健イスラーム / スーフィズム / 急進イスラーム |
研究開始時の研究の概要 |
頑迷・不寛容・攻撃的といった一般的なイスラーム像は、戒律・イスラーム法を重視するアラブ諸国のイスラーム原理主義的な主張と密接に結びついている。本研究は、これと異なる寛容・非暴力・スーフィズムに基づく非アラブ圏3か国の穏健イスラーム像を比較検証する。具体的には、インドネシアの「インドネシア型イスラーム」、パキスタンの「寛容のイスラーム」、トルコの「トルコ=イスラーム総合論」を対象にする。アラブ圏よりも地理的・人口的に大きい非アラブ圏に広まっているにもかかわらず、イスラーム研究の主流から外れてきた「穏健イスラーム像」を実証的に研究し、国際・国内社会へ積極的に発信していく。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、イスラーム法に基づくイスラーム像に対して、スーフィズムに基づくもう一つのイスラーム像を描く国々があることを、インドネシア・パキスタン・トルコの3か国を例に実証的に示し、その内容を解明することである。昨年度、インドネシアを中心に検討したのに続いて、今年度はトルコを主たる研究対象とした。 本研究においては、A. 原典分析、B. 「インドネシア型イスラーム」(インドネシア)、「寛容のイスラーム」(パキスタン)、「アナトリア的イルファーン」および「トルコ=イスラーム総合論」(トルコ)に関する理念の解明、C. 上記概念の発信・実践についての、フィールドワークを通じた分析、D. 3つの国々の「穏健イスラーム」の実態の比較・統合に基づく検証、を行う。 研究手法としては、1)文献研究、2)現地調査を合わせ用い、3)研究会を実施し、4)国際発信、5)社会還元を行う。 1)の文献研究に関しては、現地調査時に購入した「トルコ=イスラーム論」および「アナトリア的イルファーン(叡智)に関する書籍を解析中である。2」の現地調査は、8月に4名の知識人に対する聞き取り調査をトルコ・イスタンブル市で実施した。3)の研究会はトルコ・アラブ・インドネシア・中央アジアを対象に、計4回行った。4)の国際発信には、フランスでのCNRSとのジョイントセミナーを利用した。5)の社会還元は、京都大学における企業・官庁の次世代幹部に対する講演会の機会を通じて実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2年目の令和5年度は、トルコを主たる対象として、共同研究を推進した。トルコに関しては元来、「トルコ=イスラーム綜合論」のみを検証の対象としていたが、昨年度の研究の結果、近年、「アナトリア的イルファーン(叡智)」という概念もさかんに喧伝されつつあることがわかってきたため、これも検討の対象に加えることとした。 2)現地調査は2023年8月に実施し、合計4名のトルコ人知識人・政策立案者に、1980年代に提唱された「トルコ=イスラーム綜合論」と、2020年代に入ってから喧伝されるようになった「アナトリア的イルファーン」について聞き取り調査を行った。その結果、前者については、当時の政治状況のなかで提唱された概念で今日ではもはや時代遅れであるという統一した見解が得られた。他方、後者については、「イルファーン」がスーフィズムを指すことは共通していたが、「アナトリア」の含意については、①中央アジア、Turkic世界、②古代ローマから受け継いだ世界、③オスマン帝国の支配領域、④アナトリアの純真素朴な田夫の素養、といった様々な意見が聞かれた。また、インドネシアでは当然の概念とされた「穏健イスラーム」という概念が、トルコでは疑問視されることも明らかとなった。1)文献研究については、これら両概念に関する書籍を現地で購入し、読解を進めつつある。 3)研究会は6月11日(インドネシア[東長]および比較の観点から中央アジア[ゲストスピーカー])、11月12日(インドネシア[ゲストスピーカー]・アラブ[赤堀])、2月4日(インドネシア[新井]・トルコ[三沢])の3回実施した。。 4)国際発信は、フランスCNRSとのジョイントセミナー(9月1日)を利用して行った。5)社会還元は、次代を担う企業や行政機関のリーダー候補を育成する「京都大学エグゼクティブ・リーダーシップ・プログラム」における講演を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、インドネシア・トルコを中心に検討してきたので、次年度はパキスタンを対象として共同研究を推進していくこととする。 また、過去2年間の研究会で、研究分担者全員の研究発表が一巡したため、「穏健イスラーム」概念の再検討に取り組むこととしている。初年度のインドネシアにおける「宗教的穏健化」政策が、この概念の基礎になっているが、今年度のトルコにおいては強い疑義が呈されたことがその契機である。彼らによると、「穏健イスラーム」という概念は、イスラームの一体性を損ないかねないもので、むしろ欧米からのレッテル貼りの側面が強いという。「中道」や「寛容」などといった代替概念も含めて、より広く考察を深めていきたい。
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