研究課題/領域番号 |
22H00036
|
研究種目 |
基盤研究(A)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分4:地理学、文化人類学、民俗学およびその関連分野
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
慶田 勝彦 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (10195620)
|
研究分担者 |
眞島 一郎 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (10251563)
香室 結美 熊本大学, 文書館, 特任助教 (40806410)
松田 素二 総合地球環境学研究所, 研究部, 特任教授 (50173852)
棚橋 訓 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (50217098)
向井 良人 熊本保健科学大学, 保健科学部, 准教授 (50315280)
下田 健太郎 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部附属国際人文社会科学研究センター, 准教授 (90823865)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
41,860千円 (直接経費: 32,200千円、間接経費: 9,660千円)
2024年度: 8,190千円 (直接経費: 6,300千円、間接経費: 1,890千円)
2023年度: 8,190千円 (直接経費: 6,300千円、間接経費: 1,890千円)
2022年度: 9,100千円 (直接経費: 7,000千円、間接経費: 2,100千円)
|
キーワード | <水俣病>事件 / 水俣病第一次訴訟 / 水俣病研究会 / 批判的人類学 / 啓蒙思想 / アーカイブズ / 文化人類学 / 地域研究 / 写真 / 水俣病事件 / 他者の痛み / 交差性 / 裁判闘争 / アーカイブズ研究 / ポストコロニアル人類学 / 交差性(intersectionality) |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、社会性、公共性が高い<水俣病>事件関係資料のアーカイブズ化とその資料を用いた研究をアーカイブズ研究として推進する。その際、第一に熊本大学文書館を本研究の拠点にした地方大学の独自性と独創性が高い研究である点、第二に本研究の主軸を若手研究者にした次世代型の研究である点、そして最後に本研究を21世紀において新たな創発性を有するポストコロニアル人類学の実践に位置づけている点に特徴がある。
|
研究実績の概要 |
2023年度、予定していた計画は一部の変更を除き、計画通り、あるいはそれ以上の成果をあげることができた。第一に、本研究課題の中核である<水俣病>事件アーカイブズ構築作業については、昨年度に引き続き熊本大学文書館(研究分担者:香室結美、研究協力者:阿南満昭・古田絵里、研究代表者は同文書館運営委員)を拠点として着実に進展させた。関西訴訟関係資料は文書館、水俣病研究会資料は分担者・向井良人、土本典昭関係資料については分担者・下田健太郎を中心とし、必要に応じて研究協力者の富樫貞夫(熊本大学名誉教授)、有馬澄雄(水俣病研究会/熊大文書館市民研究員)の支援を得た。今年度から本格化した<水俣病>事件関連資料を用いた展示会や写真展・講演会開催は、桑原史成 写真展「いのちの物語:水俣からウクライナまで」(4月)、企画展「きこえくる熊本の《歌》と《声》」の第 2 企画展示室「水俣の《声》に耳をすませる~録音・民衆・記憶~」(10月)、一般公開セミナー「ひとり・がたり―公害の記憶と記録の交差地点から―」(研究協力者・洞ヶ瀬真人との共催、2024年2月)を熊本大学で開催した点は特筆しておきたい。第二に、若手研究者を中心としたグローカルな国際研究への展開について、研究分担者の下田健太郎と香室結美、研究協力者の飯島力の共訳本『川は私たちの中に:先住民モホークの環境汚染との闘い』(エリザベス・フーバー著、花伝社)を科研費出版助成を獲得して刊行したのは大きな成果となった。また、2020年より継続している韓国・釜山の東義大学東亜細亜研究所との研究交流は、協力者・鈴木啓孝(熊本大学)を中心に継続、発展させた(第47回韓国日本近代学会は熊本大学で開催)。なお、当初計画のうち、沖縄の写真家との比較を含んだユージン&アイリーン・スミス計画は別のプロジェクトへ転換することになったが、これについては後述する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の一部は、当初の計画以上に進展しているが、他の一部は変更等、予定通りに実施できなかった計画もあるため、平均して「おおむね順調に進展している」と自己評価した。期待以上だったのは、第一に、<水俣病>事件資料のアーカイブズ化作業を通して、本研究課題でいままで以上に重点化すべきテーマと素材が明確になったことである(この点は今後の研究展開の項目で詳述する)。また、「他者の痛み」に関する文化人類学的展開(社会学含む)については研究代表者および研究分担者の松田、棚橋、真島、下田、向井、香室は個々に<水俣病>事件との交差性を探求しており、着実に研究成果をあげている。第二に、若手研究者を中心としたグローカルな国際共同研究の成果とその評価が期待以上だったことである。ひとつは『川は私たちの中に:先住民モホークの環境汚染との闘い』の共訳(下田・香室・飯島)刊行(科研費出版助成獲得)であり、もうひとつは研究協力者の鈴木啓孝を中心とした韓国との国際交流の継続と発展(第47回韓国日本近代学会を熊本大学で開催、本研究課題の熊大研究者全員が世話人)があったことである。一方、変更等の必要が生じた計画は、沖縄の写真家との比較を含んだ写真家ユージン&アイリーン・スミス関係の論集(専門ジャーナル投稿を想定)刊行であり、諸事情を検討した結果、来年度以降、グローカルな国際共同研究への発展性を組み込んだプロジェクトとして構想を練り直し、研究協力者の飯島力を主担当とした論集刊行準備をはじめることになった点は指摘しておきたい(この点も今後の研究展開の項目で詳述する)。なお、飯島はこの研究を推進するために<水俣病>事件の写真や映像資料を保有するアリゾナ大学とイェール大学の関係施設を訪問し、<水俣病>事件を素材とした米国との共同研究のための研究ネットワークの基盤を構築した。
|
今後の研究の推進方策 |
<水俣病>事件研究アーカイブズ構築作業は最終年度まで継続的に実施する予定であるが、過去2年間の研究成果を踏まえ、今後3年間の<水俣病>事件と「他者の痛み」の交差性に関する文化人類学的研究の中核的なテーマは「21世紀における<水俣病>事件と啓蒙思想」(仮)とし、その際、アドルノ&ホルクハイマーの『啓蒙の弁証法』で提示されていた「啓蒙の自己崩壊」を中心概念として、特に水俣病第一次訴訟を多元的に歴史化しながら、21世紀における「啓蒙の希望」についての研究を推進する予定である。その際、<水俣病>事件における「啓蒙の自己崩壊」と「啓蒙の希望」の双方を刹那的に示していた水俣病研究会編の報告書『水俣病にたいする企業の責任ーチッソの不法行為』(1970年、非売品、以下『企業の責任』)を中心的な素材とする。2024年度は『企業の責任』の多元的な読み直し作業を熊本大学文書館所蔵の水俣病研究会資料を活用して行う。2025年度はその作業の成果を報告書として刊行する。最終年度はこれまでの成果を示すシンポジウムを開催する予定である。また、上述したように沖縄の写真家との比較を含んだユージン&アイリーン・スミス関係プロジェクトはアリゾナ大学とイェール大学の関係施設、そして熊本大学および琉球大学等の沖縄の大学と協働で国際研究プロジェクトチーム編成を模索し、国際共同研究として発展させてゆく具体的な可能性を探求する。順調にゆけば、2024年度はプロジェクトチームの編成、2025年度はセミナーを中心とした研究交流、最終年度にはそれまでの研究成果を報告書等にまとめる作業を予定している。なお、従来の韓国との国際協力関係は維持し、将来的には日韓米の国際共同研究への発展を目指しているが、それまでには本研究と「環境問題」との交差性を明確にしてゆく作業が大きな課題として残されている。
|