研究課題/領域番号 |
22H00105
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分13:物性物理学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
芝内 孝禎 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (00251356)
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研究分担者 |
橋本 顕一郎 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (00634982)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
43,810千円 (直接経費: 33,700千円、間接経費: 10,110千円)
2024年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
2023年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
2022年度: 27,820千円 (直接経費: 21,400千円、間接経費: 6,420千円)
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キーワード | 非従来型超伝導 / 超伝導ギャップ / ウルトラノーダル / ボゴリウボフフェルミ面 / 時間反転対称性 / ボゴリューボフフェルミ面 / 時間反転対称性の破れ / 回転対称性 / ネマティック超伝導 / 鉄系超伝導 / 円偏光マイクロ波 |
研究開始時の研究の概要 |
超伝導状態は、(1)フルギャップ超伝導、(2)ポイントノード超伝導、(3)ラインノード超伝導の、3つのクラスの超伝導ギャップを持つ状態に分類される。しかし近年、時間反転対称性を破る超伝導状態では、面状(2次元)でギャップがゼロとなる「ウルトラノーダル」超伝導が存在し得ることが理論的に示唆された。本研究では、有力候補物質Fe(Se,S)およびその関連物質に焦点を当て、第4の超伝導状態ともいえる新奇ウルトラノーダル超伝導状態の解明を目的とする。
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研究実績の概要 |
超伝導状態は、(1)フルギャップ超伝導、(2)ポイントノード超伝導、(3)ラインノード超伝導の、3つのクラスの超伝導ギャップを持つ状態に分類される。しかし近年、時間反転対称性を破る超伝導状態では、面状(2次元)でギャップがゼロとなる「ウルトラノーダル」超伝導が存在し得ることが理論的に示唆された。本研究では、申請者らによって最近見出された有力候補物質Fe(Se,S)およびその関連物質に焦点を当て、第4の超伝導状態ともいえる新奇ウルトラノーダル超伝導状態の解明を目的としている。2022年度では、この新奇超伝導状態の必須条件となる時間反転対称性の破れについて、以前から行っていたミューオンスピン緩和実験データを取りまとめ、詳細な解析を進めて論文の形にまとめ上げた。さらに、時間反転対称性の破れの検証の別の手法として、円偏光マイクロ波共振器の測定系の準備を進めている。現在までにネットワークアナライザを用いた測定システムを立ち上げ、銅キャビティによる磁性体を用いた試験的な測定を行い、動作確認を終えている。今後は、誘電体を導入した高Q値化を図り、超伝導体における時間反転対称性の破れの検出を目指す。また、東京大学物性研究所との共同研究により明らかとなった、角度分解光電子分光によるボゴリューボフフェルミ面の観測に成功し、その結果Fe(Se,S)の正方晶相の試料において、常伝導状態では4回回転対称性を持つが、超伝導状態で2回回転対称性を示すことが明らかとなった。この結果を受けて、ベクトルマグネットを用いた磁場中輸送現象の測定を面内回転磁場中で行い、実際に上部臨界磁場が2回回転対称性を示すことを明らかにした。この結果は光電子分光の結果をサポートし、2回対称のボゴリューボフフェルミ面を持つウルトラノーダル超伝導が起きていることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、鉄系超伝導体Fe(Se,S)の超伝導状態に着目し、理論的に示唆される時間反転対称性が破れた新しい超伝導状態である、ウルトラノーダル超伝導の理解を目指している。この物質が示す電子ネマティック状態はS置換とともに抑制され、高置換領域ではネマティック状態は消失し、完全に4回対称性を示す正方晶相と考えられていた。実際に、常伝導状態において、回転対称性を破るネマティシティは観測されていない。このような正方晶の試料において、超伝導状態で回転対称性を破る実験結果を複数得たことは、驚くべき結果であり、この系の異常な超伝導状態を理解する上で非常に重要であると考えられる。この結果については、海外の理論家との議論を進めており、いくつかの理論的説明が試みられ始めている。時間反転対称性の破れについての新しい実験手法については、予定通り進展しており、今後の共振器の高Q値化が重要なポイントになることが予想される。また、Fe(Se,S)の関連物質であるFe(Se,Te)においても、S置換効果と同様にTe置換によって電子ネマティック状態が抑制され、その量子臨界点の存在を示唆する実験結果を得た。さらに、Te置換系では、ネマティック量子臨界点近傍で超伝導転移温度がドーム状の上昇を示し、高磁場実験の解析から量子臨界点近傍で超伝導電子対の形成を促す相互作用が強くなることを明らかにした。これはS置換系で見られる転移温度の減少やウルトラノーダル超伝導とは明らかに異なるものであるため、その比較が今後重要となると考えられる。以上のように、新しい発見があるなど本研究は当初の計画以上に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究における今後の方針は、各項目において以下のような計画に基づき研究を遂行する予定である。 時間反転対称性の破れの再検証と定量化に関しては、ハイブリッドカプラーを用いたマイクロ波円偏光空洞共振器開発のパイオニアである産業技術総合研究所の荒川智紀博士の協力の下、共振器の最適化を進める。 低エネルギー励起の精密測定については、バックグラウンドが市販の測定装置に比べ3桁小さい自作セルを用いた長時間緩和法を用いた極低温比熱測定、および、数十MHz領域の超安定化トンネルダイオード共振器を用いた磁場侵入長測定を行う。さらに、ウルトラノーダル超伝導では他の超伝導状態とは異なる不純物効果を示す可能性があるため、エコールポリテクニークと共同で、電子線照射により点欠陥を制御した試料における検討的な測定を行う。 ボゴリューボフフェルミ面とネマティシティの関係の解明に関しては、正方晶の領域の試料にピエゾ素子を用いて一軸性歪みを導入した状態での測定を進め、人工的にネマティシティを制御することにより超伝導状態がどのように変化するかを明らかにする。さらに比較対象として異なる超伝導状態を持つと考えられるFe(Se,Te)についても研究を進め、ウルトラノーダル超伝導出現のための条件を突き止めるための研究を進める。
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