研究課題/領域番号 |
22H00112
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分13:物性物理学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 (2023-2024) 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所 (2022) |
研究代表者 |
橋坂 昌幸 東京大学, 物性研究所, 准教授 (80550649)
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研究分担者 |
熊田 倫雄 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子科学イノベーション研究部, 特別研究員 (30393771)
伊與田 英輝 東海大学, 理学部, 講師 (50725851)
秋保 貴史 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子科学イノベーション研究部, 研究主任 (50786978)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
44,200千円 (直接経費: 34,000千円、間接経費: 10,200千円)
2024年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2023年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 32,760千円 (直接経費: 25,200千円、間接経費: 7,560千円)
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キーワード | 分数量子ホール効果 / エニオン統計 / トポロジカル量子計算 |
研究開始時の研究の概要 |
非可換エニオンの交換によってエラー耐性の高いトポロジカル量子計算を実現できると理論予想されているが、個別の非可換エニオンに対して交換や測定を行うことは難しく、トポロジカル量子ビットは未だ実現していない。本課題では、半導体2次元電子系の分数量子ホール状態を用いて飛行型トポロジカル量子ビットを構成することを目指し、オンデマンドなエニオン操作のための基本デバイス作製に取り組む。並行して、占有率5/2分数量子ホール系の非可換エニオンに対するデバイス作製手法の確立、および複数のエニオン操作デバイスを組み合わせた飛行型量子ビットの実装方法の検討を行う。
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研究実績の概要 |
本課題「量子ホールエニオン操作のためのトポロジカル量子技術」では、研究期間終了後も含めた長期目標として「分数量子ホール準粒子のエニオン統計を利用したトポロジカル量子ビットの作製」を設定する。この目標に向けて、研究期間中には、第一に基本デバイスである単一エニオン源およびエニオン量子干渉計の作製、第二にエニオンのダイナミクス制御に利用する高速電荷パルス生成技術の確立、第三に非可換エニオンを発現する高品質半導体ヘテロ構造の作製、第四にエニオン制御システムのアーキテクチャ提案を目指す。 令和5年度に研究代表者の橋坂が現所属の東京大学物性研究所に異動し、新しく研究室の立ち上げを行った。研究室メンバーの募集や実験環境の構築を行い、本課題の量子ホールエニオン研究の拠点形成に努めた。 量子ホールエッジ状態を用いたエニオン伝送に向けて、その電気およびエネルギー輸送特性を同時評価した実験について論文を発表した。またエニオン観測に用いる独自の高速・精密電流読み出し手法を開発し、論文として発表した。エッジ状態を用いたエニオンのMach-Zehnder干渉の観測に成功した。単一エニオン源の作製に向けて、世界最短の時間幅1.2 ps、空間幅4usの電荷波束生成に成功した。非可換エニオンを持つ偶数分母量子ホール状態の観測に向けて、半導体ヘテロ構造試料の高品質化に取り組んだ。エッジ状態を伝播するエニオンによる量子ビット作製に向けて、ブレーディングによる量子ゲート操作の結果を観測するための量子干渉計について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和5年度に橋坂が現所属に異動し研究室の立ち上げを行ったため、分数量子ホールエニオンの量子干渉実験については遅れが生じている。しかし新しい研究室の発足は本課題を推進するためのエニオン研究拠点の形成を意味するため、長期的に大きな進展を期待できる状況を産み出すことができた。 現段階で量子ホールエッジ状態における電荷輸送とエネルギー輸送、およびエニオン検出に用いる精密電流測定系の開発について論文を発表している。これまでの成果について多くの国内・国外の研究会に招待されて講演を行っており、本課題の成果が大きな注目を集めていることが実績としてはっきりと示されている。 令和5年度の具体的な取り組みとして、Mach-Zehnder干渉実験の結果の解析が進み、エッジ状態の朝永ラッティンジャー液体的性質が電子波の干渉可視度に影響していることが分かった。このことは、朝永ラッティンジャー液体において分断化されたスピン励起の間に量子エンタングルメントが生成されることを意味する(橋坂・伊與田)。グラフェン試料におけるプラズモン波束伝播測定を行った。金属ゲート電極による電場遮蔽によってプラズモンが線形分散を持ち、伝播速度が1000 km/sのオーダーであることを示した。電気的に励起したプラズモン波束として世界最短の時間幅1.2 ps(空間幅4 um)を達成した(熊田)。異なる種類の試料ホルダーを用いて高易動度GaAs二次元電子ガス試料の結晶成長を行い、ホルダーからの脱ガスが試料品質に与える影響を調べ、従来よりも高易動度の試料作製に成功した(秋保)。ブレーディングデバイスおよびアーキテクチャの検討も順調に進んでいる。新たに国内外の研究者との連携研究計画も立ち上がりつつある。これらを総合すると、当初の計画以上に大きな飛躍が実現しつつあると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度に研究代表者の研究室に希釈冷凍機を導入する予定であり、これを用いて分数量子ホールエニオン観測のための極低温環境を整備する。これまでの整数量子ホール系のMach-Zehnder干渉実験の結果を論文として出版する。さらに、その知見を活かして分数量子ホールエッジ状態を用いたMach-Zehnder干渉の観測実験に着手する。 単一エニオン源の作製に向けて、グラフェンプラズモン波束の伝播に関する分散やロスを正確に理解し、論文にまとめる。プラズモンの動的制御に向けて、テラヘルツ領域の電気信号波形を成型する技術(テラヘルツ任意波形発生機:THz-AWG)の構築を目指す。 偶数分母量子ホール状態の観測に向けて、結晶成長装置の抜本的な真空度向上を目指す。これを実現するためにベーカブルクライオポンプを昨年度導入した。このポンプを使用した試料と使用していない試料を比較することで、高品質試料作製に必要な知見を積み上げ、半導体試料の更なる高品質化を試みる。 その他、エニオン観測のための更なる電気測定の精密化・高速化にも取り組み、新たに独自の精密電気測定技術として確立する。エニオンのブレーディングデバイス、およびアーキテクチャについての検討を進め、論文の執筆を進める。
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