研究課題/領域番号 |
22H00129
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分15:素粒子、原子核、宇宙物理学およびその関連分野
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
青木 慎也 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (30192454)
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研究分担者 |
高柳 匡 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (10432353)
杉本 茂樹 京都大学, 理学研究科, 教授 (80362408)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
40,300千円 (直接経費: 31,000千円、間接経費: 9,300千円)
2024年度: 8,450千円 (直接経費: 6,500千円、間接経費: 1,950千円)
2023年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2022年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
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キーワード | 一般化されたフロー方程式 / AdS/CFT対応 / 計量演算子 / GKP-Witten関係式 / 3次元O(N)模型 / 一般化されたフロー変換 / ブラックホール / 重力場の方程式 / スカラー場2点関数 / 情報計量 / 短距離特異性 / 有限温度の場の理論 / 漸近的AdS空間 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は、「量子重力理論の構築に向けて重要な手がかりを与えるAdS/CFT対応を、一般化されたフロー変換を用いて場の理論から解明しようとすること」である。場の理論からAdS/CFT対応を具体的に構成することでその本質が明確になり、また、その対応の拡張が可能になる。 本研究の中心をなすのは、一般化されたフロー変換の方法をd次元の場の理論に適用し新たな次元を創発させ、d+1次元の理論を構築するというアイデアである。この方法を共形不変な場の理論(CFT)に適用し、1. ブラックホールの導出、2. 重力場の運動方程式の導出、という2つの大きな研究項目を立て、総合的に研究計画を推進する。
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研究実績の概要 |
今年度の研究実績の概要は以下である。 (1)一般化されたフロー変換の詳細を調べ、境界上のコンフォーマル変換がバルク空間の一般座標変換になる機構を明らかにし、さらに量子情報計量がAdS空間の計量になることを具体的な計算で示した。このことからコンフォーマル変換から生成される一般座標変換がAdS空間の等長変換になることも分かった。また、境界上の理論が自由スカラー場の場合に、バルクのスカラー場の2点相関関数を計算したところ、バルクーバルクの2点関数は短距離の特異性を持たず、通常のAdS/CFT対応で現れる局所的なバルクのスカラー場の振る舞いとは異なるが、バルクー境界の2点関数はAdS/CFT対応で予言されている振る舞いを再現することを確認した。バルクーバルクの2点関数に短距離の特異性が現れるためには、境界上の場の理論が強く相互作用する必要があることを指摘した。これらの結果は論文としてまとめて発表された。 (2)上記の一般化されたフロー変換の応用研究にも着手した。境界上の自由なスカラー場理論に温度を導入し、そのスカラー場に対して一般されたフロー変換を適用してバルク空間を構成した。温度を導入したことでコンフォーマル不変性が破れるため、それに応じてバルク空間もAdS時空から変更を受ける。実際、量子情報計量を計算すると、境界近傍である紫外領域では、AdS時空とは異なり漸近的なAdS時空になる。境界から離れた赤外領域では、時間方向の計量がほとんどゼロになるというブラックホールと似たような性質を示すことがわかったが、ブラックホールのような地平線構造は見られなかった。赤外極限では、次元の1つ下がったAdS空間になることが示されたが、これはこ高温極限で境界上の場の理論に次元縮約が起こったことに対応している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般化されたフロー変換によるたAdS/CFT対応の研究は当初の予定通り進んでいる。 (1)まず、今年度の研究により、全体の枠組みが整備され、我々が研究で進むべく方向性がきちんと分かったことが成果である。ガウス型のフロー変換では、通常のAdS/CFT対応で予言されるバルクー境界のスカラー2点関数の振る舞いを再現できないが、一般化されたフロー変換では、それが再現できたことは大きな進展であり、この方法の長所を示している。一方、バルクーバルク2点関数の振る舞いはAdS/CFT対応の予想とは異なるが、このことは「どのような境界上の理論の性質がAdS空間上の理論を決めるのか?」に対するヒントを与えるものになっている。 (2)一般化されたフロー変換を有限温度に応用する研究が順調に進んでいる。特に、「状態に対応した量子情報計量を使うべきである」という新しい知見が得られたことは大きな成果である。実際、この新しい定義により得られた計量はブラックホールから予想される漸近的なAdS時空の計量になっている。今後は、このような計量を与えるバルク空間の理論を同定することが課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は以下である。 (1)温度を入れた自由スカラー場に対応するバルクの理論の性質を一般化されたフロー変換を用いて詳しく解析する。既に今年度の研究で、バルク空間の計量は計算されているが、今後の課題は、このようにAdSからズレた空間を与えるバルクの理論を同定することである。重力だけではAdS時空になってしまうので、それを変えるバルクの物質場を考える必要がある。バルクの物質場はアインシュタイン方程式を通して時空の計量を変えるので、逆に、得られた計量をアインシュタイン方程式に代入すれば、物質場のエネルギー運動量テンソルが求まる。そのようなエネルギー運動量テンソルを与える物質場の作用を具体的に決めることが今後の課題である。これがうまくいけば、有限温度の場の理論に対応するバルクの理論は何かという問いの回答を得る方法を確立したことになる。 (2)温度の代わりに相互作用を入れることによりコンフォーマル対称性を破った場合にどのようなバルク空間が出現するかを一般化されたフロー変換により調べる。そのために、相互作用する3次元のO(N)スカラー模型を考え、それに一般化されたフロー変換を適用する。この理論には自由場に対応する紫外固定点とウィルソン・フィッシャー赤外固定点の2つが存在する。固定点近傍では理論はコンフォーマル対称性を持つので、それに対応するバルク空間はAdSになるはずだが、2つの固定点の間ではAdSとは異なる空間になるはずなのでそれを具体的に構成する。また、2つの固定点に対応するAdS空間の半径を比較し、「赤外固定点では自由度が減るので半径が大きくなる」という予想を確かめる。また、2つの固定点では複合スカラー場のコンフォーマル次元が異なるはずなので、それがどのようにバルク空間に現れるかをスカラー場の2点関数を計算することで調べる。
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