研究課題/領域番号 |
22H00136
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分15:素粒子、原子核、宇宙物理学およびその関連分野
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
宮武 宇也 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究員 (50190799)
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研究分担者 |
平山 賀一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (30391733)
渡邉 裕 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (50353363)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
42,120千円 (直接経費: 32,400千円、間接経費: 9,720千円)
2024年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2023年度: 13,130千円 (直接経費: 10,100千円、間接経費: 3,030千円)
2022年度: 12,870千円 (直接経費: 9,900千円、間接経費: 2,970千円)
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キーワード | 天体核物理 / 早い中性子捕獲過程 / 天体における重元素合成 / 実験核物理 / r-過程終焉部の核物理実験 / ウラン・超ウラン領域の質量測定 / 放射同位体の超微細構造測定 / 天体核物理実験 / r-過程研究 |
研究開始時の研究の概要 |
独自開発のβ遅延核分裂測定器を完成させて、原子核実験上未踏領域であったr-過程終焉部の研究を開始する。具体的にはフランシウム(Fr)からプルトニウム(Pr)に及ぶ未知中性子過剰核を生成し、核分裂障壁および質量と崩壊様式の高精度測定を進める。 並行して、本研究グループで進めている高強度ウランビーム利用による、従来に比べて1万倍の高効率を持つ測定施設(KISS-II)の検討・建設を進めて、遅発核分裂片測定器による世界に先駆けた超重元素領域の系統的核分裂事象研究の開始を目指す。
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研究実績の概要 |
2022年度は、当初の研究計画通りにウラン(U)と白金(Pt)による多核子移行反応実験を遂行した。最初の実験において、元素選択型質量分離器、KISSの焦点面に設置した多重反射型飛行時間測定式質量分光器(MRTOF-MS)による未知同位元素241Uの同定に成功した。これは多核子移行反応によるr-過程終焉部の未知同位体探索の有効性を示すものであり、その結果として40年ぶりの中性子過剰な未知ウラン元素同位体の測定が実現できた。さらにMRTOF-MSによる高分解の質量測定がウラン、超ウラン領域において本領を発揮できることも示すことができた。この成果はプレスリリースを行ない、広く社会に公開した。またPhysical Review LetterにおいてEditor's Suggestionに選ばれた。 レーザー分光においては、201,202Ptの超微細構造測定に成功し、荷電半径や変形度についての知見を得ることができた。この実験では、201,202Ptイオンの計測にMRTOF-MSにより得られた精密な質量スペクトルを適用することで、比較的半減期の長いRI(200Ptは、T1/2 = 12.6(3) h、201PtはT1/2 = 2.5(1) min)に対してもS/N比よく超微細構造を測定できた。この方法によって、安定な同位体のレーザー分光が可能となった。 老朽化が進み通常運転の難しくなったレーザーシステムは、本研究費と他の費用も合算して一新することができた。基本性能の確認をおえ、2023年度の実験から本格運用する。レーザー光の高強度化によって、本研究が対象とする希少生成核種のレーザー核分光が効率よく行える。 r-過程終焉部を探求する上で、将来的に必要となるKISS II設備の検討結果については、高評価であった国際レビューのサマリーも含めて、デザインレポートとして公表できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多核子移行反応によって、r-過程終焉部の中性子過剰なウラン・超ウラン同位体を生成し測定できることを、最初の実験において示すことができた。当初の狙い通り、KISS焦点面に高分解能質量測定器MRTOF-MSを組み込むことで、高いS/N比で未知同位体を検出すると同時に質量の測定が可能となった。これらの成果をもとに、未知核生成の研究は大きく前進した。特に未知核の質量測定についての公開論文がEditor's Suggestionに選ばれたことは、予想以上の成果であった。 また、レーザーシステムを一新することで、強度の高いレーザーの安定な運転環境が実現した。これまでの実験時のレーザーシステム不調による効率の低下が払拭されたので、今後の研究を順調に進められる素地が確立できた。 さらに、MRTOF-MSをイオン計測のプローブとすることで、放射線検出では測定の難しい長寿命RIの超微細構造測定が可能となった。これは当初意識されていなかった測定手法上の特徴であり、MRTOF-MSが持つ、高いS/N比を持つ原子核の同定能力によるものであり、超微細構造測定の対象範囲の拡大に大きく貢献できた。 他方、未知核生成に関する研究や新レーザーシステムの整備などのスケジュールを優先させたために、核分裂片検出器の開発のプライオリティは下げざるを得なかった。
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今後の研究の推進方策 |
多核子移行反応による未知核生成の有効性を示せたことから、逸早くウランビームとウラン標的による終焉領域の探索実験を開始する。 並行して、システムの効率化を図って、実験計画を遂行するため、今後は、おもに下記の2件についての開発・改良を進めながら、終焉領域未知同位体の分光実験を続行してゆく。 1件目は、新たなKISSガスセルのオンライン試験を行ない、ガスセルからの生成核引出し効率向上を目指す。試験対象は大型のアルゴンガ スセルとヘリウムガスセル。前者では、比較的低圧なアルゴンガス環境とし、核反応で生成された未知原子核のガス中での停止領域を拡大させる。生成核や他の荷電粒子の入射でガス中に生じるプラズマ密度が低減され、中性原子化した生成核の生き残り確率の低下が抑制される。後者では、開発実績のあるヘリウムガスセルを利用する。ガスセル内に設置した高周波電場により、プラズマ中の生成核イオンをいち 早く引き剥がし輸送することで、生き残った生成核イオンの高効率な引出しを目指す。 2件目は、終焉部の未知原子核の質量と崩壊様式の同時測定実現に向けて、新たなTOF検出器(γ-TOF装置)の実用化を目指す。KISSで分離輸送された短寿命核イオンはアルミテープに打ち込まれ、周囲に設置したガス検出器、Ge検出器などで、崩壊β-、γ-線の測定が行われる。生成核イオンのテープ打ち込みによって生成さ れた二次電子を、加速電場、ソレノイド磁場に導かれて、テープ上流のマルチチャンネルプレートへ輸送されイオン飛行時間を検出することで、MRTOFによる質量決定が可能となる。これがγ-TOF装置である。これによって、質量と崩壊放射線との相関測定による詳細な分光観測ができる。 他方で、GAGG結晶を用いた核分裂片測定に特化した検出システムの開発は、実験の進展状況を見ながら完成を目指すことにしたい。
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