研究課題/領域番号 |
22H00152
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分16:天文学およびその関連分野
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
福井 康雄 名古屋大学, 理学研究科, 名誉教授 (30135298)
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研究分担者 |
佐野 栄俊 岐阜大学, 工学部, 助教 (50739472)
立原 研悟 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (70432565)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
42,900千円 (直接経費: 33,000千円、間接経費: 9,900千円)
2024年度: 7,540千円 (直接経費: 5,800千円、間接経費: 1,740千円)
2023年度: 6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2022年度: 20,930千円 (直接経費: 16,100千円、間接経費: 4,830千円)
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キーワード | 星間物質 / 超新星残骸 / 電波観測 / ガンマ線 / 超新鮮残骸 |
研究開始時の研究の概要 |
新たなサブミリ波受信機を開発しNANTEN2望遠鏡に搭載、中性炭素原子ガスの分布を広範囲で求める。これをCO分子輝線の結果と組み合わせ、COだけでは捉えきれない分子ガスの総量を求める方法を確立する。これを超新鮮残骸と相互作用する星間ガスの分子成分の定量法として用い、HI 21cm線スペクトルと合わせ、星間陽子の総量を算出、超新星残骸から放射されるガンマ線強度との相関を取ることで、ハドロン起源とレプトン起源のガンマ線成分を分離する。これらの割合が、超新星残骸の進化に対しどのように変化するのかを調べ、衝撃波による高エネルギー粒子加速の時間進化の描像をえる。
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研究実績の概要 |
我々は、高エネルギー宇宙線を加速していると考えられる超新星残骸(SNR)に対し、検出されたTeVガンマ線をハドロン起源のものとレプトン起源のものに分離する手法を確立し、RXJ1713 SNRに対し、その割合をおよそ6:4よ求めることに成功した。SNRと相互作用する星間陽子の柱密度(Np)を中性水素HIやCO輝線の電波強度から求め、ハドロン起源のガンマ線の指標とする。ここでHIの光学的厚みの補正も適用する。一方シンクロトロンX線のカウント数(Nx)をレプトン起源の指標とし、ガンマ線カウント(Ng)をこれら2つの線型結合で表されるとし、観測ピクセルに対して3次元フィッティングを施すことで、2つの項の寄与の割合を求めることができる。2022年度からこの手法をさらに他のSNRに対しても適用し、その多様性や時間進化の影響を調べた。まずはRXJ0852に対して、ATCT+Parkes望遠鏡のHI-データと、NANTEN望遠鏡のCOデータからNpの分布を求めた。NxはSuzaku衛星のデータを用いた。これらとH.E.S.S.ガンマ線望遠鏡で得られたNgと比較した。その結果、両成分の比率はおよそ5:5であることがわかった。これはSNRガンマ線に対し、ハドロン起源のものとレプトン起源を分離できた2例目である。また、この3次元フィットについて、単一平面ではなく、2-3平面の重ね合わせとして表現する新たな手法を試し、よりフィッティングエラーが小さくすることができた。またこれはシェル型のSNRの内側と外側で、ハドロン起源のものとレプトン起源の割合が変化している可能性を示唆している。これらの結果を論文にまとめApJ誌に投稿、2024年に出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
NANTEN2望遠鏡は、世界的なパンデミックの影響による休止から復帰するための作業を開始した。2022年度は望遠鏡のあるアタカマ地域で治安が悪化し、望遠鏡施設に泥棒が入るなどの事案が何回か発生した。メンバーの安全も考え、2022年度中の渡航や断念し、2023年度に予算を繰越、計画を延期した。2023年度はメンバーが3回のチリ渡航を行い、望遠鏡の再起動に向けた活動を行った。発電機・望遠鏡・ドームのメンテナンスを行った。また冷凍機を起動し、受信機の冷却試験なども行い、大きな問題がないことを確認した。以前から判明していた性能のよくないビームの部品を交換、電波スペクトルの取得までを行った。各デバイスのチェックを行い、観測開始に向けた問題点を整理した。 また高いデータレートに対応するため、NANTEN2システムのソフトウェアの更新作業を進めている。新システムのソフトウェアは概ね完成し、大阪公立大の1.85m望遠鏡を使ってデバッグを進めている。これが完了し次第、NANTEN2に固有の制御ソフトを新たに作成し、新システムへの移行に向けて準備が進んでいる。 ASTE望遠鏡を用いたCI輝線観測は、これまでにオリオン座分子雲のデータが公開されている。1-0と2-1の2輝線を用いることで、原子ガスの温度や柱密度が求められることがわかっている。ASTE望遠鏡は副鏡に断続的にトラブルが発生したため、観測時間が大きく制限された。来年度以降にさらにデータを取得する予定である。 一方、NANTEN2望遠鏡の安定的な運用のため、国立天文台のASTEとの協力を進めた。特に発電機とネットワークを共有する方向で検討を進めた。電力線とネットワークファイバーの埋設のための調査を実施し、サイトでの工事に向け計画を練った。
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今後の研究の推進方策 |
いくつかのSNRに対し、COおよびCIの複数のエネルギー準位の輝線観測を行う予定である。NANTEN2望遠鏡は2024年度の受信機メンテナンスやソフトウェアの更新作業を7-8月ごろから開始し、9月ごろには新システムでのコミッショニング観測を開始する予定である。これにより、高い観測効率で広い範囲のサーベイが可能になる。また10月以降はネットワークも安定した接続が確保され、日本からのリモート観測が実現できる予定である。 ASTE望遠鏡は現在、メーカーによる副鏡トラブルの抜本的な対応が進められている。他のプロジェクトのための受信機搭載の予定もあるが、スケジュールが許すならばCIの観測を行う。これにより、原子ガスの柱密度分布を高い分解能で得ることができる。これまでHIで調べたガンマ線の2つの起源の分離法をCIを用いて行うためには、まずは予備的な解析をいくつかの電離ガス領域で行い、幅広い温度・密度のレンジで柱密度を精密に求める手法を確立しておく。これにより、上記の分離法の適用可能なSNRを、より遠方のものにまで広げる予定である。
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