研究課題/領域番号 |
22H00176
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分17:地球惑星科学およびその関連分野
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
相木 秀則 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 教授 (60358752)
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研究分担者 |
藤波 初木 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 講師 (60402559)
菅野 湧貴 一般財団法人電力中央研究所, サステナブルシステム研究本部, 主任研究員 (10826978)
名倉 元樹 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(大気海洋相互作用研究センター), 主任研究員 (10421877)
尾形 友道 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 付加価値情報創生部門(アプリケーションラボ), 研究員 (60716679)
豊田 隆寛 気象庁気象研究所, 気候・環境研究部, 室長 (90450775)
野口 峻佑 九州大学, 理学研究院, 助教 (90836313)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
41,990千円 (直接経費: 32,300千円、間接経費: 9,690千円)
2024年度: 8,450千円 (直接経費: 6,500千円、間接経費: 1,950千円)
2023年度: 7,930千円 (直接経費: 6,100千円、間接経費: 1,830千円)
2022年度: 9,620千円 (直接経費: 7,400千円、間接経費: 2,220千円)
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キーワード | 赤道波・ロスビー波 / 熱帯中緯度相互作用 / MJO/ENSO/IOD / 海洋・対流圏・成層圏 / 社会応用 / インド洋ダイポールモード現象 / ベンゲラニーニョ・ニーニャ現象 / エネルギー循環の描像 / 深いケルビン波 / 浅いケルビン波 / 将来気候 / 熱帯低気圧 |
研究開始時の研究の概要 |
研究代表者らの最近の理論・モデル診断研究によって、大気海洋中の擾乱エネルギーの3次元の伝達経路を緯度帯の制限なくシームレスに世界地図上で表示・定量化することが可能となった。この強力な診断ツールは、熱帯海洋の変動の解析については実績をあげているが、大気の変動や世界の人口が集中している中緯度の現象への適用例が少ないのが課題である。本研究では熱帯域の気候変動現象(MJO/ENSO/IOD)の遠隔影響を含む様々な連鎖過程に対して統一した尺度による熱帯中緯度相互作用の理解を縦糸、診断ツールの開発から社会応用までのアプローチ構築を横糸として双補完的に推進する。
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研究実績の概要 |
熱帯インド洋における大気海洋結合変動の1つであるインド洋ダイポール(IOD)現象には正と位相と負の位相の事象がある。正の位相については本著者らの先行研究によってメカニズムの理解が進んだ。同じ診断手法を用いて本研究では負の位相(nIOD)についての考察を行った。この診断手法とは、海洋表層波動の群速度に沿ったエネルギー循環の同定であり、熱帯―亜熱帯相互作用の理解の発展に寄与するものである。まず、1958年から2018年までの過去再現実験を線形海洋モデルで行い、その出力をnIOD単独の事象とエルニーニョ・南方振動(ENSO)と同時のnIOD事象に分けて考察した。経年変動を特徴づけるのは、第1及び第3の傾圧モードの両方における赤道ケルビン波に伴う東向きのエネルギーフラックスの明瞭なパケットであることがわかった。nIODがある年の10月から12月にかけては、西風偏差が赤道波の東向き伝搬を誘発し、インド洋中東部赤道域の温度躍層を深くする。nIOD事象の種類に応じて、波エネルギーの発達は特徴的なパターンを示す。強い偏西風を特徴とするnIOD-ENSOが同時に出現する事象では、10月の早い時期に波エネルギーが東に強く伝わることが顕著になる。エネルギーフラックスの流線関数やポテンシャルの強度は、どちら種類のnIOD事象においても、11月頃にピークに達し、12月には急速に弱まる。このようにインド洋の東側境界と西側境界におけるケルビン波とロスビー波の反射が、温度躍層の深度の変動を伴って、nIOD事象の発達過程に重要な役割を果たしていることを、エネルギー循環の描像として明らかにした。並行して大西洋のベンゲラニーニョ・ニーニャ現象についても同様の解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インド洋だけでなく大西洋の波動について、熱帯気候変動におけるエネルギー循環の描像を同定することに成功した。大西洋の波動の研究については国際共同研究に発展し3本の論文を出版した。このように本研究で提唱するエネルギー循環の同定手法のユーザーが国際的に増えていくことが見込まれる。太平洋のエルニーニョ・ラニーニャ現象についても同等の研究を進めているが、これまで培った診断手法を単純に応用するだけでは不十分で、幾つかのアイディア改良が必要なことがわかり、科学的な進展を得ている。その一方で、太平洋の季節変動については、準地衡力学の定式化で一昔前に使われていたエネルギー入力の評価方法からアイディアを得て、位相依存性の少ない(=東西の縞構造が出にくい)評価方法を提案し、数理科学の進展に寄与するものである。国際的に信頼度のある気象研究所の海洋再解析データを処理して、波動エネルギーのフラックスの時空間分布に変換したプロダクトの製作が完了した。これをWeb上で公開する準備を進めている。気象研究所の大気再解析データについても同様の作業を進めている。このように、本研究では熱帯域の気候変動現象(MJO/ENSO/IOD)の遠隔影響を含む様々な連鎖過程に対して統一した尺度による熱帯中緯度相互作用の理解を縦糸、診断ツールの開発から社会応用までのアプローチ構築を横糸として双補完的に推進している。
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今後の研究の推進方策 |
国際的に信頼度のある気象研究所の大気再解析データを処理して、波動エネルギーのフラックスの時空間分布に変換し、任意の気象イベントについてエネルギー循環像の立場から考察できるようにする。対流圏・海洋区分の熱帯から中緯度への影響については、例えば、マッデンジュリアン振動(MJO)は、北半球へのロスビー波伝播を通じて東アジアの天候に影響を与える。一方、台風などの数日スケールの擾乱は、ロスビー波によるテレコネクションを介して,中緯度の季節内 の極端気象に影響を与え、MJOやエルニーニョ南方振動(ENSO)などの長周期波動によって変調されている可能性がある。ENSOのエネルギーサイクルに重要な亜熱帯域の海洋躍層の変動は風応力による応答だけでなく、躍層下のモード水変動も寄与すると考えられ、これらを統一した尺度で評価する手法を開発する。中緯度から熱帯への影響 については、データ同化システムにおける初期値化の影響に注目して、現実に近い解析場における基本場から赤道不安定波へのエネルギーの供給を定量化する。気象庁の短期予測の基盤となる調査・開発で、現業システムへ貢献する。対流圏区分の熱帯から中緯度への影響については、 波動エネルギーの流れを追跡しその消散過程とエネルギー収支の相違から、山岳地形・海洋・他の気候変動モードの影響を定量化する。BSISOやQBWにともなう定常ロスビー波の遠隔伝播について、エネルギー循環だけでなく降水影響なども含めた考察を行う。成層圏区分の中緯度から 熱帯への影響については、例えば大気のロスビー波が中緯度から熱帯に貫入することによって、赤道上の成層圏準2年振動を崩壊させたり、極域の成層圏突然昇温の遠隔的な影響によって熱帯の対流が活発化したりすることが指摘されている。これについて波動エネルギーフラックスによる診断を行い、従来の診断手法との比較を行う。
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