研究課題/領域番号 |
22H00204
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分21:電気電子工学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉川 彰 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (50292264)
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研究分担者 |
柿本 浩一 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 特任教授 (90291509)
赤岩 和明 鳥取大学, 工学研究科, 助教 (90778010)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
43,030千円 (直接経費: 33,100千円、間接経費: 9,930千円)
2024年度: 10,660千円 (直接経費: 8,200千円、間接経費: 2,460千円)
2023年度: 12,350千円 (直接経費: 9,500千円、間接経費: 2,850千円)
2022年度: 20,020千円 (直接経費: 15,400千円、間接経費: 4,620千円)
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キーワード | 単結晶成長 / 結晶成長シミュレーション / 酸化ガリウム / エピタキシャル成長 / パワーデバイス / 融液成長 / ルツボフリー / パワー半導体 / 基板 / 結晶欠陥 |
研究開始時の研究の概要 |
Ga2O3はワイドギャップ半導体の中で唯一融液成長可能なため低コスト化が期待されるが、現在主流の成長法ではルツボに使用されるIrの酸化を抑えるため、成長中の酸素濃度が2%以下に制限され、欠陥が多いことが課題である。本研究では、原料の中心部のみを溶融させ、溶け残った原料をルツボ代わりとする「スカルメルト+Cz」法の開発を行う。この方法はルツボが不要なため酸化物結晶で最も重要なパラメータである成長中の酸素濃度に制限なく育成可能で、従来法の結晶とは異なった新しい材料科学の知見を得ることが出来る。そして、デバイス特性に致命的な悪影響を与えるキラー欠陥の特定・解析を進めることで実用化を強力に推進する。
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研究実績の概要 |
本研究では、次世代のパワー半導体材料として期待されている酸化ガリウムについて、高価なイリジウムルツボを用いない新規の結晶成長方法として「スカルメルト+Cz法」を開発し、欠陥発生メカニズムの解明および抑制方法の実証を目指す。本手法は、酸化物材料の融点近傍の電気抵抗率の温度依存性を利用し、高周波誘導加熱を用いて酸化物原料融液のみを選択的に直接加熱する手法である。したがって、融液の物性値が育成環境に大きく影響を与える。特に重要な酸化物融液の電気抵抗率は、イリジウムなどの金属と比較して数桁高いため、高周波加熱による侵入深さが深くなり、小径の融液では結晶育成に理想的な温度場を得ることが難しい。 本年度は、結晶成長シミュレーションにおいて、実験装置のシミュレーションモデルを構築し、高周波誘導加熱領域と融液中の温度分布や対流の関係を計算した。その結果、「スカルメルト+Cz法」における酸化ガリウム結晶育成において、融液を直接加熱することに起因する、Cz法などの既存の結晶育成方法には見られなかった、酸化ガリウム融液中に特有の対流が生じることが解明された。この特殊な対流と温度分布は、融液表面と加熱コイルの位置関係によって変化することが計算結果として証明された。 結晶成長シミュレーションに基づいた結晶育成実験について、融液表面と加熱コイルの相対位置関係によって実際の育成結晶の固液界面形状が変わることが実証できた。固液界面形状を制御して育成した結晶の断面を光学顕微鏡およびX線回折により評価した結果、マイクロパイプのような特定方向に沿って成長するボイド欠陥は観察されなかった。これは、高い酸素分圧下で結晶成長を行うことで、融液中の原料の分解によるガス発生が抑制されたことを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は3年の期間の間で、ルツボを用いない結晶成長方法特有の結晶欠陥の解明を行う計画である。初年度は結晶成長の安定化と現状での結晶評価方法の確立を行い、今年度は結晶成長シミュレーションモデルの構築と、ルツボを用いるチョクラルスキー法とルツボフリーの結晶成長手法の違いを検討し、実際の結晶育成結果と関連付けながら実際の結晶育成を実施した。その結果、「スカルメルト+Cz法」に特有の結晶育成パラメータを見出し、固液界面形状を制御することで育成結晶中の欠陥を低減することができた。さらに、高い酸素分圧下で結晶成長を行うことが可能な本手法では、育成した結晶中にパイプ状のボイド欠陥が確認されず、育成雰囲気下の酸素分圧が結晶中の欠陥発生低減に効果的である可能性が示唆された。また、欠陥密度の評価として行ったエッチピット密度測定の結果、「スカルメルト+Cz法」で育成した結晶内部の欠陥密度は、EFG法で作製された市販の酸化ガリウム基板と比較して同等程度か1桁低いことが確認できている。 一方、育成した結晶内に数度程度結晶方位のズレた小角粒界が発生しており、種結晶から育成方向に進展していることが確認できている。酸化ガリウム結晶および基板内のドメインバウンダリーは、低酸素分圧下で結晶育成されるEFG法を用いて育成した結晶おいても確認されており、ルツボを用いない結晶成長方法に特有の結晶欠陥であるかどうか、酸化ガリウムに特有の結晶欠陥であるかどうかなど、引続き調査が必要である。 ミストCVD法によるエピタキシャル膜成長において、評価デバイス作製に必要な膜厚得るための成膜条件を選定できており、基板の欠陥密度低減を実現でき次第、デバイス作製を実施できる。 以上の結果より、当初の計画から大きく遅れることなく、順調に研究を進めることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては、引続き問題となっていた小角粒界発生の抑制方法の検討を行う。 小角粒界は一度発生すると取り除くことが困難であり、種結晶の種付け位置から育成方向に進展している。前年度は、小角粒界のない高品質な種結晶を作製し、結晶育成を実施したが粒界発生の問題は解決できなかった。種結晶が融液直上で高温に加熱されると軟化し、結晶成長時に回転させることで軟化した種結晶にねじれのトルクが加わることで結晶中心に小角粒界が発生すると考えられる。一方、融液の直接加熱による温度場形成では、特有の対流が生じるため、融液面内の温度分布が不均一になりやすく、種結晶を回転させることで結晶が受ける温度バラツキの影響を均一にすることができる。育成初期の種結晶の回転速度を遅くして、種結晶にかかるトルクを低減するとともに、シミュレーション解析を用いてメルトサイズと温度場の相関を確認し、メルトサイズ大型化によって融液面内および軸方向の温度分布の最適化を行うことで、結晶中の小角粒界発生の抑制を行う予定である。 その後、結晶全体の転位密度を低減するために、対流速度や結晶の直径制御に関して引続き検討を進める。特に、融液の幅と深さが対流速度と融液内部温度分布に影響することがシミュレーション結果から示唆されており、融液の幅と深さの最適化を実施する予定である。結晶の評価については、X線回折やエッチピット測定を行う予定である。 エピタキシャル成長については、ミストCVD法により、(001)面や(100)面などの面方位に適した成膜条件を検討する必要がある。これまでに、成膜速度の速い(010)面へのホモエピタキシャル膜成長を実施し、温度や溶媒濃度による成膜速度、エピタキシャル膜品質の評価を行っている。基板の方位は、研磨工程やデバイス特性のバランスによって最適な面方位が決まるため、それぞれの方位に適した成膜条件を検討する予定である。
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