研究課題/領域番号 |
22H00216
|
研究種目 |
基盤研究(A)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分21:電気電子工学およびその関連分野
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
青沼 仁志 神戸大学, 理学研究科, 教授 (20333643)
|
研究分担者 |
安井 浩太郎 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (70876739)
石黒 章夫 東北大学, 電気通信研究所, 教授 (90232280)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
41,990千円 (直接経費: 32,300千円、間接経費: 9,690千円)
2024年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2023年度: 8,190千円 (直接経費: 6,300千円、間接経費: 1,890千円)
2022年度: 11,440千円 (直接経費: 8,800千円、間接経費: 2,640千円)
|
キーワード | 行動生理学 / 自律分散システム / 合目的的行動 / 自己組織化 / 制御構造 / 行動の自己組織化 / 適応行動 |
研究開始時の研究の概要 |
実世界環境の中を自在に移動することは,動物の根源的な能力であるが,これに比肩しうる能力を備えたロボットは未だ実現できていない.その原因は,環境の徹底した既知化に基づく現在のロボット制御法に潜んでいると考えた.そこで,動物が進化させた「制御原理」に学ぶことで,この難題にブレークスルーをもたらす. 四億年前から姿かたちを変えず,ゆえに完成された制御原理に到達しているであろう,ムカデをモデル生物として研究を展開し,限られた計算資源という制約の下で,無限の変化の様相を示す実世界環境とリアルタイムかつ合目的的に折り合いをつけていくことを可能とする,根源的な知の原理を解き明かす.
|
研究実績の概要 |
実世界環境は予測が困難な環境であり,そのような環境の中を自在に移動することは,動物の根源的な能力であるが,これに比肩しうる能力を備えたロボットは未だ実現できていない.その原因は,環境の徹底した既知化に基づく現在のロボット制御法に潜んでいると考えた.そこで,動物が進化させた「制御原理」に学ぶことで,この難題にブレークスルーをもたらすことができる.動物は,時々刻々と変化する予測不能な環境の中でも,おかれた状況に応じて合目的的に行動する.このような適応的は行動の発現基盤となる神経系や筋骨格系の機能を理解し,そして,その制御メカニズムを説明するモデルを構築することで原理を抽出し,キャナライゼーション・ベースト制御を構築することを目指して研究を進めている. 本研究では,多くの動物で普遍的にみられる行動である『脅威に対する応答』に着目した.動物の普遍的な行動は,進化の過程で多様な動物種で保存されているため,節足動物のような無脊椎動物でも観察できる.そこで,機械的な接触刺激,配偶者や食物を争う同種他個体との遭遇などを脅威刺激として捉え,その時の行動や中枢神経系で神経修飾物質としてはたらく生体アミン類の計測に取り組んだ.その結果,脅威刺激に対して応答する行動の発現と,中枢神経系における生体アミンの量的な変化との関係性について捉えることができた.また,ムカデの多様なロコモーションを生み出す自律分散的な制御則を結合振動子系と局所感覚フィードバック制御をベースとして数理言語化することを試みた.その結果,体幹の回転と当該体幹にある左右の脚との間で協調関係を生み出すような局所的な制御が重要であるとの知見を得た.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経伝達物質や神経修飾物質としてはたらく生体アミン類は,個体の内部状態を調整する重要な生理活性物質である.個体の内部状態に応じた行動発現メカニズムを理解するため,中枢神経系の生体アミン類が行動に及ぼす効果について比較生理学的に検討した.動物は,状況に応じて脅威刺激に対して,逃避,防御,無反応する.それぞれの応答の違いは,個体の内部状態の違いの反映として表出している.ムカデ類の中枢神経系に存在する神経伝達物質や神経修飾物質のはたらきについては,これまであまり研究がなされてこなかったため,主に昆虫類の脳内生体アミン類のはたらきと比較検討を進めている.多足類は,多様でユニークな行動を示すが,実験動物として扱われることが少なく,本研究では世界に先駆けての挑戦となっている.そのため,ムカデ類と昆虫類の比較生理生化学的な実験と考察を行うことで,状況に応じた行動の切換えメカニズムの理解が深まりつつある. 多自由度の身体の運動制御メカニズムの解明に向けて, X線マイクロCTを使ったムカデ類と昆虫類の筋骨格系の比較解剖学実験,ニューロトレーサーを用いた組織化学実験による,中枢神経系を構成する神経細胞の組織学的な構造の解析を進めている. さらに,数理モデル構築とシミュレーション実験から,多足類が示す多様なロコモーション様式を再現可能な脚と体節間の協調制御原理について考察した結果,今回構築した脚と体節間の協調制御原理が,過去に提唱した手応え制御の概念を拡張したものであることに気づいた.これは,今後の研究を進めるに際して重要な知見となる.また,提案した脚と体節間の協調制御原理の妥当性を検証するための多足類型ロボットプラットフォームの設計・構築を行った.
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き,個体の内部状態に応じた行動のキャナライゼーションのメカニズム解明に向けて,行動生理学実験を行い,そこから得られた結果に基づいてモデル構築を進める.(1) 動物の内部状態を変容させる中枢神経系の生理機能:ムカデが,不意な機械刺激に対して逃避もしくは攻撃的な行動で応答する際の脳の生理状態を,脳内の神経修飾物質(生体アミン)の量的な変化として捉え,高速液体クロマトグラフィー法を使って計測する.また,行動薬理学実験で,脳内アミンの濃度を人為的に操作して行動のキャナライゼーションを実験的に誘発する方法を確立し,脅威に対する行動の変化を計測する.(2) 中枢神経系の構造解析:相同な体節が繰り返される身体構造をもつムカデ類が,匠に身体の動きを制御するからくり理解するため,各体節の動きを制御する神経節を構成する神経細胞を組織化学実験により調査する.これにより,各体節の自律分散的な制御原理について考察し,キャナライゼーションモデルを構築するための重要な知見を得る.(3) 行動のキャナライゼーションモデルの構築:引き続き,ムカデ類の多様なロコモーション様式を生み出す原理を紐解くため,自律分散的な制御則を結合振動子系と局所感覚フィードバック制御をベースとした数理言語化を進める.そして,状況に応じた行動が自己組織的に生成するキャナライゼーションモデルの構築へと展開する.(4) 実機実装実験のためのプラットフォーム構築:引き続き,構築したモデルのアルゴリズムを実装するための実機の制作に取り掛かり,他自由度の身体構造を環境の変化に即時的に適応させる制御則構築と設計について検討する.
|