研究課題/領域番号 |
22H00259
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分26:材料工学およびその関連分野
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
鎌土 重晴 長岡技術科学大学, 工学研究科, 学長 (30152846)
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研究分担者 |
宮下 幸雄 長岡技術科学大学, 工学研究科, 教授 (00303181)
中田 大貴 長岡技術科学大学, 産学融合トップランナー養成センター, 特任講師 (80800573)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
44,200千円 (直接経費: 34,000千円、間接経費: 10,200千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2022年度: 32,240千円 (直接経費: 24,800千円、間接経費: 7,440千円)
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キーワード | マグネシウム合金 / 圧延加工 / ミクロヘテロ構造 / プレス成形性 / 引張特性 / 不均一組織 / 室温成形性 / ヘテロ組織 / 集合組織 / 結晶粒径 / 結晶塑性解析 / 不均一構造 |
研究開始時の研究の概要 |
軽量なマグネシウム合金圧延材は、自動車の抜本的な軽量化・省エネルギー化を可能とする次世代の金属材料として実用化を期待されているが、優れた強度と室温成形性の同時発現が困難であり、安価な自動車の構造部材としての利用は難しい。本研究では、マグネシウム合金圧延材の特性改善を達成する新しい手法として、安価なプロセスでも実現可能な”ミクロヘテロ構造(ミクロスケールの加工粒と再結晶粒が混在した不均一組織)”に注目し、自動車パネル材として使える軽量材料の創製を行う。
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研究実績の概要 |
Mg-Zn-Ca合金にYを微量添加した圧延材を作製し、引張特性、室温成形性および微細組織に及ぼす圧延加工後の熱処理条件の影響を調べた。熱処理条件は3条件とし、微細かつ均一な結晶組織、一部が粗大結晶粒となる混粒組織、および粗大結晶粒が大部分を占める混粒組織の異なる結晶組織を得た。Y添加後でも粗大な化合物は形成しなかった。最も高い室温成形性を示したのは、一部が粗大結晶粒となる混粒組織であり、他の2つの条件では、室温成形性に差異が無かった。微細かつ均一な結晶組織の場合、やや高い強度特性が得られた。また、Y添加によっても、強度特性は若干改善したが、既存材料を大きく上回るような特性発現は認められなかった。 Y添加による顕著な特性改善は無かったことから、Mg-Zn-Ca合金による特性改善を試み、優れた強度特性と室温成形性の同時発現に成功した。Mg-Zn-Ca合金の圧延加工後、組織全面がほとんど再結晶しない低温で焼なまし(180 ℃)を行い、引張特性と室温成形性を評価したところ、250 MPaの引張耐力と7 mmを超えるエリクセン値を得ることに成功した。従来の室温成形型材料開発では、室温成形性を向上させるために材料を軟化(=完全再結晶)させておき、成形加工後の熱処理によって強度を発現させる。しかしながら、材料を軟化させるためには、高温での熱処理が必要でありコストの増大や形状不良を招くと考えられる。また、成形加工後の熱処理は数10分程度の短時間で行う必要がありものの、この短時間で材料のポテンシャルを十分に発現することは難しいと考えられていた。本手法では、あえて再結晶組織にしないことで、強度と室温成形性を両立できることを明らかにしており、熱処理プロセスも短縮できるため、マグネシウム合金の製造コスト低減にもつながると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
安価なプロセスのみを用いて、Mg-Zn-Ca合金圧延材の高強度化と室温成形性の同時改善に成功した。本研究のプロセスでは、従来手法である高温の熱処理を必要としないため、マグネシウム合金圧延材の製造で課題とされている電気代による高コスト化や、高温熱処理に伴う形状不良・表面酸化の解決につながるプロセスとなる。また、従来の常識では、金属材料の室温成形性向上には、組織全面が再結晶した状態が必須とされており、これまでの国内外の研究開発でも、その知見に基づいた組織制御が進められていた。 本研究では、組織全面が再結晶しない状態(未再結晶粒が残留)でも、近年開発が進められている高成形性マグネシウム合金に匹敵する室温成形性(エリクセン値 >7 mm)を得ることに成功した。これは、従来の常識とは異なる成形性向上の指針となる。また、再結晶組織は軟化した状態であり、高強度との両立が困難であった。一方で、未再結晶粒は転位を多く含むことから、本研究で提案した材料は、優れた強度も兼ね備えることがわかり、250 MPaの引張耐力が得られた。この数値は、高温の熱処理+時効処理を施したマグネシウム合金に匹敵することもわかった。 数々の実験から、未再結晶粒を含む組織でも、現状の開発合金に匹敵する特性発現が可能なことを明らかにしつつあり、組織因子の最適化により、さらなる特性発現も可能と考えられることから、研究進捗は順調であると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
特性発現に成功したMg-Zn-Ca合金圧延材の微細組織、引張特性および室温成形性に及ぼす加工熱処理条件の影響を調べる。加工熱処理条件として、圧延加工時の圧下率および圧延加工後の熱処理に注目し、光学顕微鏡や走査電子顕微鏡を用いて、再結晶粒・未再結晶粒の割合、残留未再結晶粒の形状を評価する。また、電子線後方散乱回折により、再結晶粒・未再結晶粒の集合組織や、転位密度を算出する。その後、圧延材の引張特性と室温成形性を評価し、強度と室温成形性の同時発現に必要な組織因子の明らかにする。 優れた特性が得られた材料の引張試験および室温成形試験中の組織変化も観察する。引張試験や室温成形試験を中断した試験片を作製し、走査電子顕微鏡により、き裂の発生・伝播挙動を観察する。また、電子線後方散乱回折を用いて、き裂周辺のすべりや双晶の活動を評価し、高延性化・高成形性化理由を検証する。さらに、結晶塑性シミュレーションも援用し、マクロ的な視点から、材料中のすべりや双晶の活動も検証し、微細組織観察の結果と合わせて、未再結晶粒による特性発現機構を確立する。 また、一層の高強度化を達成するために、第二相粒子(析出物)も利用する。昨年度までの研究成果として、変形能の低下が生じない第二相粒子として、Mg2Sn相およびMg6Zn3Ca2相を実験的に見出した。Mg-Zn-Ca合金中では、合金元素添加量によってMg6Zn3Ca2相を分散させることが可能である。このため、目的とする化合物が高密度に分散し、未再結晶粒も残留するプロセスを見出し、既存合金を凌駕する特性発現に向けた材料開発を目指す。
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