研究課題/領域番号 |
22H00288
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分29:応用物理物性およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 (2024) 東北大学 (2022-2023) |
研究代表者 |
塚崎 敦 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (50400396)
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研究分担者 |
野島 勉 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (80222199)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
42,510千円 (直接経費: 32,700千円、間接経費: 9,810千円)
2024年度: 7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
2023年度: 7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
2022年度: 13,260千円 (直接経費: 10,200千円、間接経費: 3,060千円)
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キーワード | 薄膜物性 / 電気二重層トランジスタ / 単原子層物性 / カゴメ格子 / 界面物性 / 電気化学エッチング / 薄膜界面物性 |
研究開始時の研究の概要 |
物質の単原子層の電子状態はバルク固体の状態とは大きく異なる。このことはグラフェンを代表とする層状物質を中心に実証されてきた。本研究では、剥離法や薄膜堆積に基づく従来手法から発想を転換して、厚みのある高品質結晶薄膜を起点に、イオン液体中で電気化学的に試料の厚さを調整する手法を用いることで外的要因を極力排除した単原子層の物性評価を達成する。エッチング過程をin-situで計測する光学・電気的手法を新たに確立することでナノメートルオーダーの精密膜厚調整と系統的な膜厚変化に伴う物性評価を可能にして、カゴメ金属単原子層の量子物性を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究では、カゴメ格子を持つ金属間化合物に着目して、薄膜合成手法と電気化学エッチング法を駆使することで極薄の厚さを調整して、単原子層における低次元物性の理解に繋げることを目的にしている。これまでの薄膜合成では、FeとCoのカゴメ格子をもつFe3Sn2、Fe3SnとCo3Sn2S2の薄膜を合成できる状況にある。しかしながら、5nm以下の極薄膜の物性評価を行うためには、絶縁性基板上に原子レベルで平坦な薄膜を合成する必要があるが、現状技術では三次元的な成長モードとなるため、合成技術の工夫のみでは極薄膜の物性を評価を達成することが困難な状況にある。そこで、電気二重層トランジスタ構造を用いた電気化学エッチング法を適用して膜厚を調整することで極薄膜を得る方法が有用である。これまでにセレン化鉄にこの手法を適用して超伝導転移温度の系統的な膜厚依存性評価を可能にした実績がある。この手法を、カゴメ格子をもつ薄膜に適用する技術として確立するための基礎実験として、電気化学反応を生じさせた試料の膜厚、構造と組成の変化を評価したところ、特定の金属元素種が選択的に電界脱離することを見出した。この手法を用いることでカゴメ格子層の膜厚を系統的に調整可能であることを論文に報告した。また、電界脱離による膜厚変化を光学的手法でその場計測するためのプローバーを新たに導入して立ち上げた。この装置を用いて透過吸収測定しながら電界印加することが可能となり、膜厚変化のその場計測を実施する準備を整えた。これらの実験技術の立ち上げと電気化学エッチング法の有効性を確認できたことから、研究は順調に進んでおり、今後、様々な3d遷移金属を有するカゴメ格子の薄膜を用いて極薄膜物性の評価を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、カゴメ格子を持つ物質群の薄膜合成と電気化学エッチング法で有効膜厚を調整する手法の確立を目指して実験を推進した。薄膜合成では、これまでに成功しているFeのカゴメ格子Fe3Sn、Fe3Sn2とCoのカゴメ格子Co3Sn2S2に加えて、新たな3d遷移金属元素のカゴメ格子を持つ物質の薄膜合成と膜厚調整や物性評価の検討を進めた。Co3Sn2S2の薄膜では、Coのカゴメ格子層で金属的電気伝導がもたらされるため、単原子層の伝導特性を評価するにはCoのカゴメ格子層数を調整する手法の確立が重要となる。イオン液体を用いた電気二重層トランジスタ構造で積極的に化学反応を引き起こす手法は、近年様々な物質に適用されている。本研究では、金属間化合物特有の化学反応制御に着目して実験条件の最適化に取り組んだ。今年度は電気化学エッチング法における反応の進展を系統的に評価した。エッチング後の試料を用いて、膜厚、組成、構造と電気伝導特性を総合的に理解するように実験を進めた。その結果、Co3Sn2S2薄膜の電気化学エッチング法では、Co元素がSnやSに比べて選択的に反応脱離することを元素分析で観測した。電気伝導は膜厚変化に伴う変化を示したことから、Coカゴメ層数の伝導をCo脱離量で調整可能であることを結論した。これらの結果から、カゴメ金属の薄膜に対する電気化学エッチング法の基礎について理解を深めることができた。これらの内容を論文に報告し、当該論文はfeatured articleに選ばれてジャーナルのホームページにトップで紹介された。また、電気化学エッチングのその場計測を電気的接触と光学特性で実施するためのプローバーを設計して新規に導入した。実際にそのプローバーにおいて、素子の透過吸収測定と電気測定の同時計測を可能にするセットアップを組み上げた。これらの進捗から、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度確立できた電気化学エッチング法を様々な3d遷移金属元素のカゴメ格子薄膜に適用して極薄膜の物性評価を実施する。特に、5nmまでの膜厚調整と伝導特性評価の系統的実験を達成できているCo3Sn2S2において、1nmの物性評価の達成に取り組む。FeやTiなどの他の3d遷移金属のカゴメ格子薄膜においてもエッチング手法を適用して、電気化学エッチング手法の汎用性を実証する研究に取り組み、元素種の違いによる反応制御の理解を深める。金属間化合物における電気化学エッチング法の特性を、イオン液体と薄膜の界面における化学反応として理解することに繋げる。薄膜合成ではFeとCoのカゴメ格子に加えて、TiやNiのカゴメ格子合成に取り組み、評価物性としても磁性や異常ホール効果、超伝導の多彩なカゴメ格子物性を意欲的に開拓する。物性計測では、特に低温における電気伝導を電気二重層トランジスタ構造で制御する研究に取り組む。
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