研究課題/領域番号 |
22H00299
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分30:応用物理工学およびその関連分野
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
馬場 俊彦 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (50202271)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
42,770千円 (直接経費: 32,900千円、間接経費: 9,870千円)
2024年度: 9,360千円 (直接経費: 7,200千円、間接経費: 2,160千円)
2023年度: 15,210千円 (直接経費: 11,700千円、間接経費: 3,510千円)
2022年度: 18,200千円 (直接経費: 14,000千円、間接経費: 4,200千円)
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キーワード | LiDAR / FMCW / シリコンフォトニクス / スローライト / ライダ / フォトニック結晶 / 光集積 |
研究開始時の研究の概要 |
初年度はLiDARチップの内部損失低減とチャネル数増大による高感度・高速・高解像度化をはかる.また,環境光耐性や振動耐性を評価する. 2年目は波長多重方式を導入して,動作の並列化をはかる.その方法の一つとして光周波数コムを検討し,そのオンチップ集積を図る.可能であればデュアルコムによる信号検出の高速化をはかる. 3年目は以上の技術を総合して,アンビエンスセンシングの様々な応用を開発する.
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研究実績の概要 |
これまでのLiDARチップは,測距信号のS/Nが小さく抑えられていた.この主な原因は,入力光パワーを5dBm以上に上げたときに発生する原因不明の背景ノイズにあった.今年度,本LiDARの測距方式に必要となる周波数変調光の生成に,従来の外部変調ではなく,半導体レーザの直接変調を試したところ,このノイズがなくなることを発見した.これは外部変調の際に周期の切れ目で起こる位相の跳びが原因と思われた.いずれにせよ,入力パワーを上げることでS/Nが向上できるようになったため,シリコンの非線形吸収に起因した破壊パワーに近い17dBmの光を導入したところ,初めてランバート散乱体の点群画像取得に成功した.もしこの破壊パワーをさらに引き上げることができれば,LiDARをさらに高性能化できる.そこで,光の入射端面に,非線形吸収が起こらないSiNを導入すること考えた.既に昨年度,これを計画し,テストチップを設計,製作を開始した.昨年度に完成する予定だったが,ファブの装置故障の関係で今年度にずれ込んだ.今年度にこれが完成したので,試験を行った結果,入力パワーを最大1Wまで引き上げても,SiNは十分な耐性を示した.一方で,SiNからSiに光結合させると,Siの破壊強度でその手前にあるSiNが全て損傷するという現象が観測された.これはファイバヒューズと同様の破壊現象と思われる.興味深く,今後,詳細に調査する予定であるが,SiNからすぐにSiに導入すると,いずれにしても破壊が起こることがわかったので,SiNの範囲で,ある程度の機能を集積する必要があることがわかった.具体的には,LiDARの送信と受信を仕分けるカプラまでをSiNで製作することが考えられる.これにより破壊パワーを少なくとも2倍向上させることができ,LiDARの性能をその分,高めることができる見通しを得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初,LiDARの背景ノイズを抑制するために,光回路の構成を変えて,バランス検出によってノイズを相殺することが有効と考え,実際にそれを製作・評価した.そして実際にノイズの抑制効果を確認したが,これは温度揺らぎに敏感で,熱光学効果を用いるLiDARチップでは,ノイズ抑制の揺らぎもかなり大きいことがわかった.これを何とか改善しようと研究している一方で,従来の外部変調をやめて,半導体レーザの直接変調に変更する研究も同時に進めていた.これは半導体レーザの電流をわずかに変えることで,熱光学効果とキャリアプラズマ効果により屈折率が変わり,波長が変化することを応用した周波数変調である.ただし電流を注意深く調整しないと,周波数変調が直線的にならず,LiDARの測距信号が著しく低下するという課題があった.これに対して機械学習などを用いて調整する方法がUCバークレーより報告されていたが,本研究では単純に信号の時間波形を読み取り,その周期が一定になるようにフィードバックを掛ける方法を試したところ,これが想定以上に機能した.そして,これを用いたLiDAR動作を試したところ,問題となっていたノイズが完全に解消されることがわかった.これは本LiDARの長年の問題を解決する非常に重要な成果であり,実際,散乱体の点群画像を普通に取得することができるようになって,LiDARの完成度が高まった.また,SiNを導入することで入力パワーをさらに高める試みも進んでいる.実際,シリコンの10倍以上の耐パワー性が確認された.ただしSiNとシリコンを組み合わせると問題が出るというのは報告例のない新たな課題であり,物理的にも興味深いので,今後,探求し,その回避法や利用法を検討していく.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は光周波数領域リフレクトメトリ法を導入し,製作したLiDARチップ内部の光学反射点分布を可視化することに初めて成功した.その結果,光ビームを出射するスローライト回折格子につながる光スイッチで想定の5倍の損失が見積もられた.これは送受信往復で10dBとなるので深刻である.このスイッチに使われているカプラの寸法ずれが原因と考えられたので,次回試作では進化計算を用いてロバスト性を高めた新設計のカプラを導入する.また,スローライト回折格子にもトポロジカル最適化し,従来,懸案となっていたSiO2クラッド内に閉じ込められて外に取り出すことができない光の成分を抑制することを目指す.これがうまくいけば,送受信往復で6dBの損失低減が図れる.もう一つはコリメート用レンズの改善である.スローライト回折格子を長尺化すると,受信効率が12dB改善されることがこれまでの研究で分かっていたが,一方で長尺化に伴うコリメート効率の低下が問題となっていた.本年度はいままでの2枚組レンズを新たに設計して長尺化に伴うコリメート条件のずれを相殺することを目指す.以上の3つの改善により,トータルで30dB近い改善が見込まれる.これが実現できれば,本年度に実現した近距離でのランバート散乱体のセンシングを,数10m~100m以上に延伸することができ,性能が一気に実用レベルとなる.これらに加えて,スローライト回折格子は波長掃引によって広角にビームを走査し,なおかつそれを周波数変調光として用いることで,そのまま測距が行える.これによって,デバイス構成が大幅に簡単化することが期待される.そのような高速波長掃引光源を入手し,実証を併せて目指す予定である.
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