研究課題/領域番号 |
22H00322
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分34:無機・錯体化学、分析化学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小澤 岳昌 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40302806)
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研究分担者 |
塩谷 光彦 東京理科大学, 研究推進機構総合研究院, 教授 (60187333)
尾崎 倫孝 北海道大学, 医学研究院, 学術研究員 (80256510)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
43,030千円 (直接経費: 33,100千円、間接経費: 9,930千円)
2024年度: 11,180千円 (直接経費: 8,600千円、間接経費: 2,580千円)
2023年度: 11,180千円 (直接経費: 8,600千円、間接経費: 2,580千円)
2022年度: 20,670千円 (直接経費: 15,900千円、間接経費: 4,770千円)
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キーワード | 生体分子 / 熱操作 / 遺伝子発現 / バーコード / 抗体 / 超音波 / リン光 / 熱 |
研究開始時の研究の概要 |
生体分子の 機能的な“時空間的な流れ”を解くために,既存の光イメージング技術および光操作技術を超越した革新分析技術を開発する.具体的には,単一細胞内の特定の生体分子を熱で操作し,細胞シグナルの変動を多分子同時可視化する新たな分析基盤技術を開発する.既存の光操作の組織透過性(<1cm)の限界を超越し,またこれまでの複数蛍光同時観察(<5色程度)を大きく拡張する革新的な原理の提唱とその基盤技術を開発する.
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研究実績の概要 |
生命を化学的視点から分子科学的に理解しその叡智を社会発展の礎とすることは,医療・診断技術の開発や疾患の原因解明に直結する,現代社会における極めて重要な課題である.これまでに,“生命を構成する要素≡分子”の全体像が分析技術の長足の進歩により明らかとなってきた.しかし生命は,部品の組み合わせからなる機械とは異なり,生体分子の動的平衡とも呼ぶべき時空間的な流れが本質にあり,既存の光イメージング技術および光操作技術を超越した革新分析技術が求められている.2022年度は,単一細胞内の特定の生体分子を熱で操作するための基盤となるモジュール開発を行った.加熱により構造変化するタンパク質を活用し,従来よりも熱応答能が改善された解離モジュールが得られた.さらに,新規分子設計によりタンパク質間相互作用を熱で惹起する結合モジュールの開発に成功した.平行して,組織内の複数シグナル分子を同時検出するための新たなリン光イメージング技術を開発した.リン光波長およびリン光の長時間発光の特性を利用することで,複数の生体分子を同時に観測できることが期待される.今後は,開発した熱操作モジュールを用いた実践応用実験を進める.また,抗体にリン光分子を連結し,特定の組織内の分子を観察するための顕微システムの構築を行う予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は熱で操作可能な結合・解離モジュールを開発した.モジュールの評価においては哺乳細胞で発現したタンパク質を回収し,架橋剤とともに37℃または40℃で保温し,二量体形成効率を生化学的に確認した.結果,加熱により構造変化するタンパク質を活用することで,従来よりも熱応答能が改善された解離モジュールが得られた.さらに,新規分子設計によりタンパク質間相互作用を熱で誘導する結合モジュールの開発に成功した. 開発したモジュールを活用し,タンパク質分泌を加熱により誘導するシステムの構築を行った.解離モジュールによる繋留や凝集により小胞体内に標的タンパク質が保持されることを共焦点顕微鏡観察により確認した.保持が確認された分子の組み合わせについて,37℃または40℃で培養し,培地中に分泌された発光タンパク質の量を発光値の測定で評価した.結果,タンパク質を40℃10分間の加熱で約3倍分泌できる分子の組み合わせを発見した. 生体組織内に少数存在する標的分子の可視化観察を,自家蛍光の影響を低減することにより実現するりん光ライトシート顕微鏡の設計と構築を行った.本装置は試料にパルスレーザーを照射し,数10ナノ秒~数マイクロ秒の遅延の後カメラ露光を行うことで,蛍光の発生が終息してからりん光を検出することで選択的なリン光の検出を行う.シリンドリカルレンズを用いたライトシート顕微鏡装置にピコ秒パルスレーザーと遅延パルス発生器を導入する設計を行った.この設計に基づきライトシート顕微鏡の励起・検出光路の構築を行った.光路調整のために連続波レーザーを用意し,試料ホルダーから500mmの距離の位置にf=500mmのシリンドリカルレンズを配置することで,試料位置で最も厚みが小さくなるシート光の構築を実現した.このシート光励起により、蛍光およびりん光マイクロ粒子の観察を行った.
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今後の研究の推進方策 |
熱による結合・解離モジュールの開発について,今後はさらなる機能評価を進める.具体的には,温度を1℃単位で変更した際の二量体形成効率の変化や,40℃で加熱後,37℃に戻した際の二量体形成の可逆性とその可逆反応の動態を解析する.評価系は,架橋剤とともに所定の温度で保温し,二量体形成効率を生化学的に確認する.また,タンパク質分泌システムについてはモジュールの連結回数による分泌効率の変化や,システムの発現条件などを検討し,さらなる熱応答能の改善を目指す.組織深部で熱によるシステムを駆動させるには,超音波照射による局所加熱現象によって駆動することを確認することが必須である.そこで,超音波照射機器および温度センサーを用い,培養細胞について超音波照射による局所加熱現象を誘導する実験系を構築し,モジュール・システムの駆動を検証する. 独自に開発したリン光分子をEGFR抗体に連結し,マウスの特定の組織に結合させて透明化試料を作製する.観察のための顕微システムは,パルスレーザーを光路に導入し,選択的りん光観察に必要な遅延時間の最適化を行う.りん光/蛍光強度比が最大となる遅延時間を見出し,最もシグナル/背景比の高い選択的りん光観察条件とする.実試料の観察を通じて,生体組織内から発生する自家蛍光の影響を低減した,生体組織りん光イメージング法を確立する.また細胞試料に対しても同様の観察ができるように,ライトシート光路を顕微鏡にも分波した選択的りん光顕微鏡法を併せて構築する.
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