研究課題/領域番号 |
22H00348
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分37:生体分子化学およびその関連分野
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
吉沢 道人 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (70372399)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
42,640千円 (直接経費: 32,800千円、間接経費: 9,840千円)
2024年度: 8,580千円 (直接経費: 6,600千円、間接経費: 1,980千円)
2023年度: 8,580千円 (直接経費: 6,600千円、間接経費: 1,980千円)
2022年度: 16,900千円 (直接経費: 13,000千円、間接経費: 3,900千円)
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キーワード | 超分子化学 / 芳香環カプセル / 生体分子 / ナノ空間 / 分子識別 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究「生体空間機能を志向した芳香環ナノ空間の開発」では、自己組織化によって精密合成した水溶性の「芳香環ナノ空間」を活用して、生体の空間機能を人工的に模倣すると共に、前例のない特異物性や反応活性を創出することを目的とする。芳香環ナノ空間を特徴とする、広範な研究分野で実用され高機能な “空間ツール” を開発する。
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研究実績の概要 |
本年度の研究成果として、芳香環ナノ空間の分子捕捉能の拡張に成功した。具体的には、芳香環カプセルは水中に加えて、固体状態で揮発性有機分子の混合物から特定分子を選択的に捕捉および吸着できることを見出した。また、その異性体混合物からの選択的捕捉および効率的捕捉の繰り返しも達成し、新たな吸着材料としての機能を開拓した。扁平型の芳香環カプセルの分子間相互作用を駆動力とした高選択的な平面芳香族化合物の識別に成功した。例えば、複数の芳香族化合物の混合物からCH-π相互作用が効果的に機能することで、円盤状の芳香族化合物を選択的に捕捉した。また、平面金属錯体の内包によりその空間特性を解明した。水溶性の芳香環ケージを新規に作成して、その開放空間を活用して、従来の密閉空間では捕捉できない色素分子の捕捉と物性解明を達成した。特に、複数の嵩高い置換基を持つ色素分子を効率的に捕捉することで、その水系溶媒中での利用を可能とし、ケージ内での特異物性を明らかにした。さらに、芳香環カプセル空間を利用して、高反応性分子の捕捉による安定化と構造制御を見出した。特にイミン結合を持つ化合物を立体選択的に捕捉すると共に水中での分解反応を高度に抑制した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、自己組織化によって精密に合成した水溶性の「芳香環ナノ空間」を活用して、生体の空間機能を人工的に模倣すると共に、生体ナノ空間を超越した分子捕捉、特異物性や反応活性を創出することである。本年度の研究成果として、芳香環ナノ空間の分子捕捉能の拡張に成功した。具体的には(1)芳香環カプセルは水中に加えて、固体状態で揮発性有機分子の混合物(蒸気)から特定分子(キシレンなど)を選択的に捕捉および吸着できることを見出した。また、その異性体混合物からの選択的捕捉および効率的捕捉の繰り返しも達成し、新たな吸着材料としての機能を開拓した。(2)扁平型の芳香環カプセルの分子間相互作用(CH-π相互作用)を駆動力とした高選択的な平面芳香族化合物の識別に成功した。例えば、複数の芳香族化合物の混合物から最大で32つのCH-π相互作用が効果的に機能することで、円盤状の芳香族化合物(コロネンなど)を100%選択的に捕捉した。また、平面金属錯体の内包によりその空間特性を解明した。(3)水溶性の芳香環ケージを新規に作成して、その開放空間を活用して、従来の密閉空間では捕捉できない色素分子の捕捉と物性解明を達成した。特に、2つまたは4つの嵩高い置換基を持つ色素分子(ペリレンビスイミドやポルフィリン誘導体など)を効率的に捕捉することで、その水系溶媒中での利用を可能とし、ケージ内での特異物性を明らかにした。さらに(4)芳香環カプセル空間を利用して、高反応性分子の捕捉による安定化と構造制御を見出した。特にイミン結合を持つ化合物(C,N-ジフェニルイミン)を立体選択的に捕捉すると共に水中での分解反応を高度に抑制した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画として、貫通型捕捉により生体オリゴマーを配列識別する。申請者は既に、芳香環カプセルが水中で、長鎖のオリゴエチレンオキサイドを “貫通型”に捕捉できることを発見している。この多点 CH-π相互作用および水素結合を駆動力とした捕捉能を活用し、オリゴペプチドに含まれる特定のアミノ酸配列を識別する。例えば、バリン配列を含むオリゴグリシンを他のオリゴマー混合物から配列選択的に捕捉する。既報の人工ホストでは不可能なオリゴおよびポリペプチドの内部/末端配列の識別も達成する。芳香環ナノ空間による生合成反応に挑戦する。長鎖テルペノイドのセスキテルペンやジテルペンは生合成の原料である。本研究では、生体空間のみで制御されるこれらの環化反応を人工空間で模倣する。例えば、水中でファルネソールを芳香環ナノ空間に捕捉して、その配座を立体的に固定する。次に、酸添加で生じる高活性なカチオン種の反応性を空間で制御し、特定の環化生成物(ジンギテルペンなど)を得る。この空間では、カチオン-π相互作用で電子的な反応制御が期待できる。結晶構造解析と理論計算の予測から基質と人工ナノ空間の最適構造を求めることで、オーダーメイドな「人工」生合成反応を達成する。さらに、この基質捕捉・環化反応・生成物回収のサイクルを「固体状態」の芳香環ナノ空間で達成することで、医薬品中間体の大量合成に挑戦する。
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