研究課題/領域番号 |
22H00358
|
研究種目 |
基盤研究(A)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分38:農芸化学およびその関連分野
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
喜田 聡 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (80301547)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
42,120千円 (直接経費: 32,400千円、間接経費: 9,720千円)
2024年度: 10,010千円 (直接経費: 7,700千円、間接経費: 2,310千円)
2023年度: 10,010千円 (直接経費: 7,700千円、間接経費: 2,310千円)
2022年度: 12,090千円 (直接経費: 9,300千円、間接経費: 2,790千円)
|
キーワード | 記憶エングラム / 記憶再固定化 / 記憶消去 / 恐怖記憶 / 食記憶 / 記憶アップデート / 食行動 / 前頭前野 / 脳疾患 |
研究開始時の研究の概要 |
記憶は不変ではなく、情報追加やその強弱の変化など随時アップデートされ、この記憶の動性は我々の柔軟な精神活動の基盤である。近年、記憶エングラム(記憶痕跡)が同定され、記憶形成とその貯蔵の実態解明が進んでいるが、記憶アップデートの実態は不明である。本研究では、申請者がこれまでに開発してきたマウスの記憶アップデートモデルを用いて、数理学的解析やイメージング解析を導入し、記憶エングラムの観点から恐怖記憶と食記憶を中心にした記憶が動的にアップデートされる生物学的制御基盤を行動・回路・細胞・分子レベルで解明する。さらに、本研究の成果を用いて栄養学的アプローチにより脳疾患改善への応用を試みる。
|
研究実績の概要 |
1,記憶エングラム回路構造の解析;エングラム細胞間のエングラムシナプスを可視化するinducibly switching GRASP法の開発を継続した。 2, エングラムニューロン生理学的性状解析;前頭前野の興奮性ニューロンにAAVを用いてGCaMP6fを発現させて神経活動を脳搭載型蛍光顕微鏡によるCa2+イメージングにより解析した。恐怖記憶再固定化時に活動するニューロン集団と消去時に活動するニューロン集団が同定された。 3, 記憶エングラムの機能的変化の分子基盤の解明;恐怖記憶想起前にcAMP量の増加を導くホスホジエステラーゼ4阻害剤を腹腔内投与した結果、恐怖記憶想起とその後の恐怖記憶の保持が促進されることが示された。光依存的にcAMPを産生する光プローブを発現するウイルスを野生型マウス海馬に注入し、海馬に光照射した結果、その後の恐怖記憶想起と保持がそれぞれ促進された。さらに、マウス海馬CA1領域に対する光照射によるこの光プローブの操作により、cAMPによって活性化されるAキナーゼの標的であるCREBのリン酸化レベルも有意に増加すること、すなわち、光操作によりcAMP情報伝達が上方制御されることも示した。以上のように、恐怖記憶強化にcAMP情報伝達が中心的な役割を果たすことが明らかになった。従って、恐怖記憶エングラムにおけるcAMP情報伝達経路の活性化によって恐怖記憶エングラムの機能が変容することが示唆された。以上の結果から、cAMP情報伝達経路の過活性化が心的外傷後ストレス障害に観察されるトラウマ記憶の再体験症状の重症化に関わることが考えられた。 4, 食記憶エングラムニューロンの同定;新規食物の摂食時に前頭前野や島皮質のニューロン活動が活性化されることが強く示された。そこで、これら脳領域が食物の新規と既知を識別しており、食記憶エングラムを有していることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規開発したinducibly switching GRASP法の有用性が確認されてきている点、脳搭載型蛍光顕微鏡によるCa2+イメージング法を確立し、前頭前野の興奮性ニューロンの神経活動を計測して恐怖記憶再固定化と消去時に活性化するニューロン集団が同定されてきている点、cAMP情報伝達経路の活性化によって恐怖記憶エングラムが機能変容して恐怖記憶が強化されることが示され、記憶記憶エングラムの機能変容を導く分子動態が明らかになった点、また、食物の新規性を識別して食記憶アップデート機構の解析が進展している点から、順調に進んでいると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
1, エングラムシナプス検出による記憶エングラム回路構造の解析を進展させるために、inducibly switching GRASP法を用いて、再固定化エングラムシナプスと消去エングラムシナプスの両者の定量方法を確立する。 2, 脳搭載型蛍光顕微鏡を用いたアデノ随伴ウイルスによりGCaMP6fを発現させた前頭前野ニューロンの神経活動の計測を継続して、再固定化時と消去時のニューロン活動を比較し、さらに、再固定から消去に移行するフェーズにおけるニューロン活動をモニタリングする。さらに、再固定化エングラムと消去エングラムをそれぞれラベルして、エングラムニューロン自身の活動に特化した解析も実施することで、研究を進展させる。 3, cAMP分解を制御する新規光プローブを用いて、記憶想起時のcAMPの濃度変化の影響を解析し、記憶エングラムの機能的変化に対するcAMP情報伝達の役割を解析する。 4. 再固定化時及び消去時にc-fos発現が誘導されるエングラムニューロンをGFPによってラベルして、GFPでラベル化されたニューロンを収集して、RNA-Seqを実施して、再固定化と消去時に活性化されるニューロンの分子動態の解析を実施する。 5. 食記憶エングラムの行動解析系を用いて、前頭前野と島皮質を中心として食物の新規と既知を認識する脳領域の同定を進めて、食記憶エングラムニューロンを同定する。
|