研究課題/領域番号 |
22H00369
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分39:生産環境農学およびその関連分野
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
和田 博史 愛媛大学, 農学研究科, 教授 (40533146)
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研究分担者 |
荒木 卓哉 愛媛大学, 農学研究科, 教授 (10363326)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
39,650千円 (直接経費: 30,500千円、間接経費: 9,150千円)
2024年度: 11,180千円 (直接経費: 8,600千円、間接経費: 2,580千円)
2023年度: 8,450千円 (直接経費: 6,500千円、間接経費: 1,950千円)
2022年度: 11,960千円 (直接経費: 9,200千円、間接経費: 2,760千円)
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キーワード | 高温不稔 / 水稲 / 水分生理 / 受粉 / 質量分析 |
研究開始時の研究の概要 |
現在,地球温暖化に伴う気温上昇により,世界各地で突発的な高温が頻度高く観測されており,イネ,大麦,トウモロコシ等のイネ科作物を中心に作物生産が不安定化している.開花期の高温はイネ科作物の受精過程に障害を来たし,収量にも影響を与えうる.受精についてはこれまで多くの研究蓄積があるものの,イネ科作物特有の受精,特に受粉に至る過程は未解明な点が多い.本研究では,微細なイネの花粉粒,雌蕊の細胞内の代謝変化を捉えることのできる計測法と電子顕微鏡を用いた細胞スケールの解析技術により,イネの受粉過程と高温応答を解明することで,高温下での栽培技術の開発と高温に強い新品種の育成につなげる.
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研究実績の概要 |
モデル植物であるシロイヌナズナと比較しながら,イネの受粉メカニズムについて,高温耐性品種も供試しながら解析を行った.受粉後の雌蕊上の花粉数,及び受粉後の雌蕊上の花粉粒の動態をビデオ撮影し,花粉粒サイズの経時変化とその挙動について調査した.また,開花期の葯開裂前直前の1花粉粒,雌蕊細胞の代謝パターンと比較しながら,昨年度観察により確認された花粉粒から浸出する溢液を対象に,研究代表者らの開発した1細胞分子計測法(picoPPESI-MS)による代謝マッピングを行った.雌蕊細胞の代謝産物計測において未同定であった代謝分子についてもMS/MS分析によりその代謝分子を同定した.その結果,人工受粉後,フット構造形成に先立って,花粉粒表面からナノリットルスケールの溢液浸潤が起こることを供試した全ての品種で確認した.観察結果及びpicoPPESI-MSを用いた代謝産物解析から,雌蕊上への花粉粒の着地(受粉)後,花粉粒内で急速な代謝応答が起こり,溢液浸潤に至ることが示唆された.浸出した高粘性の溢液がポレンコートを介して花粉粒と雌蕊の接着部分に向かって流れ落ち,その溢液上において,花粉粒では独特の振り子運動を生じた後,花粉粒は固定され,ポレンフット形成,発芽に至ることを見出した.受粉後約2分間,花粉粒体積が連続的に減少していたことから,イネでは主として,溢液浸潤が先行し,その後,花粉粒水和に至ると考えられた.また,上述の花粉粒の動態については,受粉時の衝突エネルギーに起因した急速な代謝変化に伴う細胞小器官の位置変化がその応答に関与している可能性がメタボローム解析および文献調査から示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ピコリットルスケールの1細胞分子計測を用いることで,従来解析が困難であった花粉溢液,1花粉粒・雌蕊細胞由来の細胞液を対象に部位特異的な代謝産物の検出と,同定を完了した.イネ受粉時の花粉粒の動態解析,及び1細胞分子計測から,花粉粒の乳頭細胞達後に起こる花粉溢液現象には,乳頭細胞との衝突に伴う花粉粒内の代謝変化が密接に関わっているという新知見も見出されている.さらに,部分的に水和した花粉を持つイネの受粉パターンは,従来のモデル植物であるシロイヌナズナの受粉様式とは異なり,花粉水和に先行して花粉浸潤が起こる上,イネ花粉粒独特の動態についても捉えることができたことから,順調に研究が進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
普及品種及び高温耐性品種を供試して,高温不稔を誘導する環境下で2日間高温処理した雄蕊を用いて,平温下で人工受粉させたときの溢液の組成変化,花粉粒の体積変化を調べるとともに,溢液の組成と高温耐性との関連性についても総合的に考察する.得られたデータを基にイネとシロイヌナズナとでの受粉プロセスの相違を水分生理学的な視点から考察する.
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