研究課題/領域番号 |
22H00374
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分40:森林圏科学、水圏応用科学およびその関連分野
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山口 篤 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (50344495)
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研究分担者 |
松野 孝平 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (90712159)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
36,010千円 (直接経費: 27,700千円、間接経費: 8,310千円)
2024年度: 7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
2023年度: 7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
2022年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
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キーワード | 動物プランクトン / カイアシ類 / 海洋生態系 / 気候変動 / 経年変化 / ベーリング海 / 湿重量 / 気候レジームシフト / サイズ組成 / ZooScan / NBSS / 南東部ベーリング海 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は北海道大学附属練習船が、1955年から現在にかけて、同一の方法で定量採集した動物プランクトンホルマリン液浸固定試料を対象にして、経年的な動物プランクトン群集構造、主要種の個体群構造、イメージング技法(ZooScan)を用いたバイオマスサイズスペクトラム(NBSS)による食物網構造解析を行い、過去5回あった気候レジームシフトが、海洋低次生態系構造にどのような影響を与えていたかを評価するものである。動物プランクトンを対象とする多角的な解析を行うことにより、気候変動が海洋低次生産過程に与える影響を詳細に明らかし、海洋生態系の将来予測にケーススタディとして貢献することが本研究の概要である。
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研究実績の概要 |
今年度は、北部ベーリング海における海氷融解早期化によるプランクトン生産性の減少に関する論文を発表した。これは動物プランクトン群集のサイズ解析から生態系内の高次生物への転送効率の低下を示唆する内容を含んでいる。研究のポイントは、太平洋側北極海の動物プランクトンサイズ組成を画像解析装置ZooScanにより解析、海氷融解の早い年に小型な動物プランクトンが増加することを発見、小型動物プランクトンの優占による高次捕食者へのエネルギー転送効率の減少を示唆、の3点である。 温暖化による海氷融解の早期化が報告されている北部ベーリング海において、2018年は最も融解時期が早い年であった。この北部ベーリング海において、動物プランクトンは餌生物として生態系を支える重要な役割を果たしている。これまでの研究で、2018年に植物ブランクトンブルームの遅延、動物プランクトンの群集組成の変化が報告がされているが、生態系内のエネルギー転送がどのように変化していたのかについては十分に理解されていなかった。そのため2017年と2018年の夏季に、北部ベーリング海における動物プランクトン群集のサイズ組成を調査し、小型種の増加、それに伴う転送効率と生産性の低下を発見した。これにより、海氷融解早期化が低次生態系を変化させ、魚類、海鳥などの高次捕食者へ悪影響を及ぼしている可能性が高いことを明らかにした。 本研究の成果は、海氷変動によって、生態系内のエネルギフローが変化する過程を明らかにしているため、今後の地球温暖化に対する海洋生態系の将来予測の精度向上に貢献する知見となっている。本研究成果は、2023年11月29日にFrontiers in Marine Science誌にオンライン掲載された。この内容については論文発表に加えプレスリリースを行い、朝日新聞や科学新聞において記事として掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、ベーリング海において隣接する2年のうち、最も気候変動の大きかった2017年と2018年の動物プランクトン群集について、採集された動物プランクトン試料をZooScanによる画像解析を行い、サイズ組成に関するNBSSを求め、インパクトの高い論文を発表することが出来て、プレスリリースにより、各種新聞において研究成果が記事として紹介された。 北部ベーリング海は北極海と太平洋を繋ぐ浅い陸棚域であり、高い一次生産を有している。動物プランクトンは生態系において魚類など高次捕食者の餌生物として重要な役割を担っている。北部ベーリング海では近年、地球温暖化に起因すると考えられる海氷融解の早期化が進行しており、なかでも2018年は最も融解が早い年であった。この海氷変動により、動物プランクトンの群集変化や高次捕食者の個体数減少が報告されているが、動物プランクトンサイズや生態系内の転送効率へどのように影響するかは不明な点が多くあった。 今年度に行った研究により、海氷変動によって動物プランクトンサイズ組成や、高次栄養段階へ渡る生産がどのように変化するかを明らかにするため、画像解析装置ZooScanを用いたサイズおよび群集構造解析を行い、そのサイズ組成から高次栄養段階へ渡るエネルギーについて考察を行うことが出来た。 タラ科魚類の仔稚魚の捕食可能サイズ範囲における動物プランクトン分類群や低い生物量は、仔稚魚にとって不適な餌環境であったと考えられた。また転送効率は、生態系内での食う-食われる回数が多く、結果的に転送効率も低下することが明らかになった。この動物プランクトンの変化によって、高次捕食者へ渡るエネルギー量が減少し、魚類などの個体数減少の影響を及ぼしたと考えられた。この内容は気候変動が該当海域の海洋低次生態系に与える影響として、極めてクリアーな内容を含んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの一連の研究で、ベーリング海陸棚域における動物プランクトン群集とそのサイズ組成に気候変動が与える影響の一端を明らかにすることが出来た。しかしこれらの知見は、小型な口径(45 cm)の動物プランクトンネットを用いた海底直上からの鉛直曳きにより採集されたもので、水柱内の鉛直分布や、より密度の低い、大型動物プランクトン(ハウスを形成する尾虫類や、大型クラゲ類)に関する知見は乏しい点が問題点として挙げられる。そこで今後は、動物プランクトンネットによる採集に加え、現場曳航型の2つの機器:CPICSとPTZカメラにより、現場での動物プランクトンの画像データを取得し、カイアシ類や大型動物プランクトンの鉛直分布の微細分布を明らかにすることを目的としている。 これらのうちCPICSは、米国ウッズホール海洋研研究所で開発された、曳航型のV-finに搭載し、斜行曳きを行うことにより、カイアシ類やヤムシ類などの中型動物プランクトンの現存量を画像で取得する画像イメージング機器である。またPTZカメラは、日本のROVの草分け的存在である(株)広和による水中カメラで、最大100 mまでの画像を取得することが出来る。ベーリング海陸棚域ではこれまで、(株)広和によるROVをフレーム枠に装着し、低速で降下上昇させて画像データを取得することにより、大型動物プランクトンの微細鉛直分布を明らかにすることが出来ている(Maekakuchi et al. 2020)。 この際のROVは耐圧が50 mまでであったが、2023年の調査で導入したPTZカメラは耐圧100 mであり、水深が100 m以浅のベーリング海陸棚域において、近底層までの画像データを取得することが出来た。今後は、これら2つのイメージング機器により取得されたデータを解析し、物プランクトンの鉛直分布の微細分布を明らかにする予定である。
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