研究課題/領域番号 |
22H00382
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分40:森林圏科学、水圏応用科学およびその関連分野
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中野 伸一 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (50270723)
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研究分担者 |
岡崎 友輔 京都大学, 化学研究所, 助教 (40823745)
山口 保彦 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター, 総合解析部門, 主任研究員 (50726221)
早川 和秀 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター, 総合解析部門, 部門長 (80291178)
布施 泰朗 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 准教授 (90303932)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
42,380千円 (直接経費: 32,600千円、間接経費: 9,780千円)
2024年度: 10,660千円 (直接経費: 8,200千円、間接経費: 2,460千円)
2023年度: 10,790千円 (直接経費: 8,300千円、間接経費: 2,490千円)
2022年度: 13,910千円 (直接経費: 10,700千円、間接経費: 3,210千円)
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キーワード | 湖沼深水層 / 有機物動態 / 高分子溶存有機物 / 沈降粒子 / 微生物ループ |
研究開始時の研究の概要 |
湖沼の深水層は、細菌や原生生物等の微生物が優占するシステムである。深水層生態系は、湖沼水体の大部分を占めるにも関わらず研究が遅れており、研究のブラックボックスとなっていた。我々は、深水層では沈降粒子の分解に伴って生産・放出される高分子溶存態有機物(DOM)が物質循環の結節点に位置し、細菌による分解も受けながら生産と分解を繰り返して循環する可能性を世界で初めて見出した。本研究では、これを「高分子DOM循環」と名付け、世界に先駆けてその役割とメカニズムの解明に挑む。地球温暖化による湖沼深水層の貧酸素化とその生態系の変化に関連して、深水層生態系の現状把握はその将来予測のための重要な学術基盤となる。
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研究実績の概要 |
サブテーマ1と2:昨年度開始した時系列型セジメントトラップによる本実験を行い、採取した沈降粒子をサイズ分画しマスフラックスを算出したところ、冬季から夏季に相対的に大きなフラックスが観測され、過去の観測結果と異なる状況を把握した。また、過去に比べてフラックスは微増していることが確認された。高分子DOMの分解速度定数への水温影響を把握するための、5段階の水温別生分解実験を開始した。昨年度に深水層湖水から小規模限外濾過で分画濃縮した高分子DOM画分について、SEC-TOCを用いた精製効率確認、LC-FLDを用いたアミノ酸組成分析、EA-IRMSを用いた安定炭素・窒素同位体比分析等を実施した。沈降粒子試料についても、アミノ酸組成、同位体比等の分析を実施し、高分子DOM画分と比較した。さらに、中規模限外濾過システムを用いて、多量の湖水から高分子DOMを分画濃縮・精製して、EGA-MS等を用いた詳細な化学分析を行った。先行して実施している底質の化学特性解析では、底質中有機成分、特に多糖類由来成分と湖底直上溶存酸素濃度と強い正の相関があることがわかった。 サブテーマ3:今年度の成果は、国内学会と複数の国際学会(招待講演含む)にて発表し、現在論文執筆中である。また、琵琶湖の比較対象となる大水深湖として、宮崎県の霧島御池において採水を行い、核酸抽出およびシーケンス解析を行った。 サブテーマ4:昨年度に引き続き、深水層における細菌群集の生産速度を測定し、サブテーマ1で測定された高分子DOMの生産速度と比較している。また、深水層に生息する原生生物のうち、タイヨウチュウについてのデータを取りまとめ、国際誌(Journal of Plankton Research)において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サブテーマ1と2:時系列型セジメントトラップによる本実験を進めている。沈降粒子試料は、熱分解GC-MS、EGA-MS分析等により有機物成分の質的評価を行った。昨年度に深水層湖水から小規模限外濾過で分画濃縮した高分子DOM画分について、SEC-TOCを用いた精製効率確認、LC-FLDを用いたアミノ酸組成分析、EA-IRMSを用いた安定炭素・窒素同位体比分析等を実施した。沈降粒子試料についても、アミノ酸組成、同位体比等の分析を実施し、高分子DOM画分と比較した。さらに、以前に開発した中規模限外濾過システムを活用し、多量の湖水から高分子DOMを分画濃縮・精製して、EGA-MS等を用いた詳細な化学分析を行った。これまでに確立した熱脱着・熱分解GCMS法により、化学特性解析を実施できる体制ができた。先行して実施している底質の化学特性解析では、底質中有機成分、特に多糖類由来成分と湖底直上溶存酸素濃度と強い正の相関があることがわかった。 サブテーマ3:前年度までに整理した情報を詳細に解析し、並行して琵琶湖で進めている他の研究成果と相乗的に解析することで、CL500-11に感染するウイルスの完全長ゲノムを特定した。さらに、これまでに得られている時空間的に採集したメタゲノムデータを活用することで、その季節動態や細胞内外での動態を明らかにし、当該ウイルスが高い現存量と溶菌活性を持ち、CL500-11の死滅おける重要な要因である可能性を示した。 サブテーマ4:原生生物による細菌摂食については、特定鞭毛虫グループや繊毛虫属・種ごとに各細菌種の被食を可視化する手法の条件設定を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
サブテーマ1:時系列型セジメントトラップ実験を、今年度も継続する。沈降粒子観測と合わせ、深水層での高分子DOM濃度と生産・分解フラックスの観測を継続する。高分子DOMの濃度変動の追跡も継続する。水温別の湖水有機物生分解実験の試料採取も継続する。SEC-TOCによる高分子DOM濃度の測定を進めていく。高分子DOMの生産・分解フラックスの推定も進め、沈降粒子フラックスや細菌生産速度等のパラメータと比較する。水深75mにおける沈降粒子試料の化学特性解析と底質表層の有機物化学特性を解析し、琵琶湖低層における酸素消費に関わる物質循環の解明を試みる。さらに、貧酸素水塊が及ぼす影響を化学的アプローチで解析する。 サブテーマ2:昨年度に深水層湖水から小規模限外濾過で分画濃縮した高分子DOM画分について、SEC-TOCを用いた精製効率確認、LC-FLDを用いたアミノ酸組成分析、EA-IRMSを用いた安定炭素・窒素同位体比分析等を実施する。沈降粒子試料についても、アミノ酸組成、同位体比等の分析を実施し、高分子DOM画分と比較する。 サブテーマ3:昨年度に引き続き、琵琶湖細菌の大規模メタゲノム・メタトランスクリプトーム情報を構築する。また、この情報を活用して、特に高分子DOMの分解・取り込みに関わる遺伝子に着目し、高分子DOM循環に寄与する主要な細菌系統や遺伝子について季節動態やメカニズムを検討する。 サブテーマ4:深水層における細菌群集の生産速度の測定、および特定鞭毛虫グループや繊毛虫属・種ごとに各細菌種の被食を可視化する手法の条件設定を継続する。また、深水層の研究を進めている過程で、底泥中のベントスの重要性が見えてきたため、琵琶湖のベントスの生態を本研究においてどう扱うか検討する。
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