研究課題/領域番号 |
22H00415
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分44:細胞レベルから個体レベルの生物学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松永 幸大 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (40323448)
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研究分担者 |
坂本 卓也 神奈川大学, 理学部, 准教授 (40637691)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
41,730千円 (直接経費: 32,100千円、間接経費: 9,630千円)
2024年度: 8,190千円 (直接経費: 6,300千円、間接経費: 1,890千円)
2023年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2022年度: 7,280千円 (直接経費: 5,600千円、間接経費: 1,680千円)
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キーワード | ヒストン修飾 / 再生 / プライミング / エピジェネティックス / 植物 |
研究開始時の研究の概要 |
植物は強力な再生能を持つ。申請者らは、この再生能を裏付けるメカニズムとして、多能性細胞群であるカルスがエピジェネティック・プライミングにより、シュート(葉と茎)を形成するための遺伝子群を転写待機状態にすることを見出した。この発見を突破口にして、エピゲノム調節、クロマチン構造の開閉状態を統合解析しながら、植物再生を制御する転写待機メカニズムの分子基盤を解明する独創性の高い研究を展開する。さらに、細胞核内の三次元的な位置関係を考慮しながらクロマチン動態解析をすることで、再生プロセスの時間軸と細胞核内の空間情報を密接に結び付けた独自の分子基盤解明を行う。
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研究実績の概要 |
植物の再生メカニズムの解明は、植物ホルモン作用や転写因子制御などを中心に研究が行われてきた。微妙な環境変化や植物片の状態によって植物の器官再生効率が変化することから、従来報告されていたホルモンシグナル調節や遺伝子発現制御とは異なるエピジェネティック・プライミングが植物再生に関与することを明らかにした。本研究は、エピゲノム制御、クロマチン動態、再生現象という三つの生命現象を統合的に解析することで、分化誘導前の準備段階における転写待機状態創出のメカニズムをエピジェネティック・プライミングによるヒストン修飾のバランス調節、クロマチン構造変換、RNAポリメラーゼの修飾による転写活性制御、細胞核内の三次元的クロマチン配置を統合的に解析し、植物再生現象を制御する転写待機状態の分子基盤を解明することを目的とする。将来起こり得る現象に関与する遺伝子群を転写待機状態にすることで、生物が生命現象の連続性をどのように維持しているかを理解することを目指している。申請者らは、ヒストンH3・リジン4残基(H3K4)特異的脱メチル化酵素であるLDL3(lysine-specific demethylase-kike 3)の変異体のカルスは、再生誘導後、根を再生させるが、シュートを再生させないことを見出した。LDL3は、カルス培養時にH3K4me2をシュート形成遺伝子群のクロマチンのヒストンからあらかじめ除去することで、プライミング状態を作り出す因子である。一方、植物再生遺伝子がカルスの中で転写待機状態のためにH3K4meを入れる酵素の実体は不明であった、この酵素の同定を進め、ATX (arabidopsis homolog of trithorax)であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒストンメチル化酵素ATXはシュート関連遺伝子領域にヒストンメチル化(H3K4me3)を導入することで発現を活性化させており、カルス形成時にATXの発現が下がるとそれら遺伝子の発現も抑制され、シュート誘導時には再びATXの発現が上昇し、シュート関連遺伝子が発現するようになることがわかった。ATXの蛍光イメージングデータも取得し、カルスを介したシュート再生において、ATXが適切な箇所で機能を持することを明らかにした。ATXはカルス形成時にシュート関連遺伝子領域のヒストンメチル化を行い、エピジェネティック・プライミング機構による発現制御を行っているLDL3と協調して段階的にシュート関連遺伝子の発現を制御していることも判明したため、順調に進展していると言える。また、シロイヌナズナの変異体を使用してクロマチン空間配置制御させるタンパク質群(CII-LINC複合体およびCRWN)の同定に成功し、国際科学雑誌Nature Plants誌に原著論文を発表した。さらに、20種類以上存在するシロイヌナズナのヒストン脱アセチル化酵素に注目し、一つひとつ機能を失わせながら、器官再生を制御する酵素の特定を行った。その中の一つの酵素HDA19が、葉や茎を形成させる器官原基で働き、アセチル基を取り除くことで、68個の遺伝子の働きを器官再生の適切な時期にOFFにしていた。器官が再生するときに、初期に働く遺伝子、その次に働く遺伝子、そしてその次と、段階的に遺伝子発現のON/OFFを切り替えていく必要がある。そのスイッチの切り替えがうまくいかないと、器官再生が起こらない、もしくは異常な形の器官が再生される。このスイッチのOFF側を制御する酵素HDA19を発見し、国際科学雑誌PNAS Nexus誌に発表した。
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今後の研究の推進方策 |
再生に関与するH3K4メチル基転移酵素(ATX)の変異体も再生に関与することがわかった。つまり、LDL3のようなH3K4meのeraserだけでなく、writerも再生に関わり、H3K4meのバランスが重要であり、その制御システムの存在が明らかになった。そこで、H3K4メチル基転移酵素変異体のChIP-seqとRNA-seq解析を行い、LDL3データと統合的解析することで、eraserとwriterによるH3K3meのバランス調節機構を明らかにし、その制御下にあるプライミング遺伝子群を更に絞り込む。また、クロマチンは転写状態によって細胞核内の三次元的な位置を変化させる。転写が行われるときに、遺伝子座のクロマチン、転写因子、RNAPIIなどが集結した細胞核内領域である転写ファクトリーが出現する。動物の転写ファクトリーは、細胞核中心部に多く、核膜近傍には少ない。申請者らは、植物の環境応答遺伝子が核膜近傍に移動したときに転写されることを示し、動物とは異なる。また、プライミング状態にある遺伝子群が細胞核内において三次元的に集合するのか、プライミング後にどのように転写ファクトリーに移動するかなど、動植物を通じて全く不明である。そこで、そのメカニズムを知るためにも、プライミング状態にある遺伝子群の細胞核内の三次元的動態を解析することをイメージング技術の開発とともに進める。
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