研究課題/領域番号 |
22H00416
|
研究種目 |
基盤研究(A)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分44:細胞レベルから個体レベルの生物学およびその関連分野
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
飯野 雄一 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40192471)
|
研究分担者 |
豊島 有 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (10632341)
國友 博文 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (20302812)
富岡 征大 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (40466800)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
42,380千円 (直接経費: 32,600千円、間接経費: 9,780千円)
2024年度: 13,650千円 (直接経費: 10,500千円、間接経費: 3,150千円)
2023年度: 13,650千円 (直接経費: 10,500千円、間接経費: 3,150千円)
2022年度: 15,080千円 (直接経費: 11,600千円、間接経費: 3,480千円)
|
キーワード | 忌避行動 / 行動定量解析 / 活性酸素 / 全脳イメージング / 老化 / インスリン経路 / 腸脳相関 / ストレス感受性MAPキナーゼ / 線虫 / ストレス応答MAPキナーゼ / JNK / p38 / 塩走性学習 / 摂食と飢餓による連合学習 / 神経制御機構 / 脳腸相関 / ペプチド伝達物質 |
研究開始時の研究の概要 |
近年のヒトをはじめとする様々な動物の研究で、環境情報は外部感覚器官で受容されるだけでなく、体表や内臓などさまざまな組織で感知され統合され、全身の生理状態を変化させること、神経系がその統合センターとして働くことがわかってきている。本研究では線虫「C.エレガンス」を用いて飢餓やストレスがどう感知されて神経系で処理され、いかに行動を変化させるかを解明する。線虫は体長約1mmで約1000個の細胞からできており、神経のつながりがすべて分かっていて研究に有利である。インスリンや他のペプチド、腸内細菌がどう情報を伝え、神経回路での情報の流れを変化させるかを遺伝子改変やイメージングにより明らかにする。
|
研究実績の概要 |
本研究では微小なモデル生物線虫C. elegansを用い、神経回路が環境の悪化、特に飢餓状況やストレスによりいかに感覚情報処理を最適化させ行動を変化させるかの分子・神経機構を明らかにすることを目的としている。2022年度は、【項目A】ストレスを感知する機構 として、ストレス応答性MAPキナーゼ経路の役割について検討を行った。評価系として、高い塩濃度で餌を経験した線虫は高い塩濃度へ、低い塩濃度で餌を経験した線虫は低い塩濃度へ誘引され、逆に飢餓を経験すると、経験した塩濃度を避けるようになる学習を用いた。線虫のストレス感受性MAPKにはいくつかの経路があるが、JNK経路のMAPKKK, MAPKKであるMLK-1, MEK-1の欠損変異体がいずれも飢餓後の忌避行動が起こらず経験した塩濃度に誘引されるという顕著な表現型を示した。つまりこの経路が飢餓情報を伝える可能性がある。一方、p38経路に属すると言われていたMAPKKK, MAPKKであるNSY-1, SEK-1の欠損変異体は、飢餓、摂食いずれについても高塩への走性に強い欠損を示した。さらに、この上流と言われているTIR-1, UNC-43の変異体も同様の行動欠損を示した。しかしながら、線虫の3つのp38であるPMK-1, 2, 3の変異体についてはいずれも行動は正常であった。線虫の3つのJNKのうち、JNK-1とKGB-2は正常であった。しかし、KGB-1の変異体は、MLK-1とSEK-1の二重変異体とほぼ同じ強い欠損を示した。すなわち、二種のMAPKKK-MAPKK経路のシグナルがJNK MAPKであるKGB-1で合流していることがわかった。細胞特異的レスキューにより、SEK-1は塩を感じる感覚神経ASER、侵害刺激を感じる感覚神経ASH、およびADF感覚神経で働くことが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
【項目A】ストレスを感知する機構 について、腸からのシグナルを解明するために変異体大腸菌ライブラリを用いたスクリーニングを行ったが、摂食した線虫に顕著な異常をもたらす大腸菌変異株は見つからなかった。一方、【項目B】飢餓情報によりシナプス伝達が変化する機構 について、摂食時に経験した塩濃度を好むようになる機構については、塩を感受するASER神経からのグルタミン酸放出が制御されることにより行動可塑性が達成されることはかなり正確に機構を解明し、Nature Communications誌に報告している。一方、飢餓学習(嫌悪学習)においてはペプチドが働くと予想されているため、神経ペプチドのスクリーニングを行い、行動異常を生じたペプチドの解析を行っているが、この研究は時間がかかっており、いまだ継続中である。【項目C】飢餓情報の感知と行動制御の統合的理解 については、全脳イメージング(4Dイメージング)で飢餓による神経活動の変化を特定することを試みているが、全神経の活動をみると、個体差が非常に大きいことが見出されており、環境条件による違いを特定することについては困難に直面している。こういった事情で少し研究が遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
飢餓シグナルの伝達に関わる神経ペプチドの候補を見出しているので、その機能解析のため、複数のペプチドの変異体を組み合わせた実験と、細胞特異的発現実験を行い、制御機構を明らかにする。また、ユビキチン経路が飢餓時の行動変化に関与することを見出している(Ike et al. 2022)。HECT型ユビキチンリガーゼの変異体のサプレッサー変異の取得に成功しているので、この解析を通じてユビキチン系が神経機能へどう働くかを特定する。また、侵害受容神経の受容能を変化させる処理を見出しており、この解析を通じて侵害刺激の感覚受容機構についての知見を深めることを目指す。 全脳イメージングについては、飢餓条件よりも加齢による変化を見る方がいい可能性があり、加齢による全脳神経活動の変化を調べる実験も進める。
|