研究課題/領域番号 |
22H00419
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分44:細胞レベルから個体レベルの生物学およびその関連分野
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
田中 啓二 公益財団法人東京都医学総合研究所, 基礎医科学研究分野, 理事長 (10108871)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
42,510千円 (直接経費: 32,700千円、間接経費: 9,810千円)
2024年度: 13,520千円 (直接経費: 10,400千円、間接経費: 3,120千円)
2023年度: 13,520千円 (直接経費: 10,400千円、間接経費: 3,120千円)
2022年度: 15,470千円 (直接経費: 11,900千円、間接経費: 3,570千円)
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キーワード | Proteasome / Ubiquitin / Proteolysis / ATP / プロテアソーム / ユビキチン / 相分離 / 神経変性疾患 |
研究開始時の研究の概要 |
代表者がライフワークとして進めてきた巨大で複雑なタンパク質分解酵素であるプロテアソームについては、依然として未解明な課題が山積している。最近、代表者らは浸透圧ストレス負荷後に液-液相分離して生じたプロテアソーム液滴がタンパク質分解センターとして機能することを発見すると共にユビキチンの分岐鎖がタンパク質分解シグナルを増幅・変換することを発見した。本研究では、新規に見出したATP枯渇ストレスによって誘導されるプロテアソームの相分離機構とユビキチン分岐鎖が制御する難分解性タンパク質のクリアランス機構の全容解明に挑み、プロテオスタシスの異常に起因した神経変性疾患の発症機構解明に新たな地平を拓く。
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研究実績の概要 |
研究代表者は、巨大で複雑なタンパク質分解酵素であるプロテアソームの構造と機能に関する基礎研究を推進してきた。本研究では、(1)タンパク質相分離が駆動するプロテアソーム動態とプロテオスタシス制御機構と(2)ユビキチン分岐鎖の分子機能に着目した課題を遂行している。本年度、(1)について、ATP枯渇ストレスで形成するユビキチン・プロテアソーム液滴の解析を行い、本液滴が相転移で形成するハイドロゲル様の性質を持ち、細胞毒性を示すこと、すなわち神経変性疾患など広範の疾病で観察されるユビキチン封入体に類似することを明らかにした。また、液滴の効率的な形成にはE3ユビキチンリガーゼであるUBE3AやUBR5を、解離にはp97 ATPaseや脱ユビキチン化酵素を必要とすることを明らかにした。興味深いことに、ユビキチンに結合するプロテアソーム構成サブユニットの発現低下により、ユビキチン化基質自体の液滴化が阻害されたことから、プロテアソームがユビキチン化基質の相分離を亢進させる、相分離ドライバーである可能性が示唆された。また、培養細胞レベルでのユビキチン封入体の解析系の構築を目的に、神経変性疾患の病原性遺伝子TDP43をモデル基質とした実験系作出に着手した。(2)について、E3ユビキチンリガーゼcIAPを利用した標的タンパク質分解誘導剤の分子機構を解析し、その効率的な標的タンパク質分解には、K63鎖からK11鎖とK48鎖が枝分かれしたK11/K48/K63分岐鎖が重要であることを明らかにした(Nat Chem Biol 2023)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一の課題、プロテアソーム相分離について、ATP枯渇ストレスで形成するユビキチン・プロテアソーム液滴の解析は、殆ど計画通りに進捗した。液滴の形成・解離機構を明らかにすると共に、FRAP法(光褪色後蛍光回復法)により、その動態を定量解析した。ATP枯渇ストレスで形成する液滴は、これまで報告されたプロテアソーム液滴の中で最も流動性が低く、ハイドロゲル様の性質を示した。さらに、本液滴は可溶性に乏しく、細胞内で難溶性の構造体として存在し、細胞毒性を示すことが示唆された。 また、相転移で形成する封入体の解析系構築を目的とし、神経変性疾患の病原性遺伝子をモデル基質とした人為的ユビキチン封入体形成法の開発を進めている。 さらに、プロテアソーム阻害により形成する新たなユビキチン・プロテアソーム液滴を発見し、その解析に着手した。
第二の課題、ユビキチン分岐鎖について、ユビキチンリガーゼcIAPを利用した標的タンパク質分解誘導剤の分子機構を解析し、新たな分子メカニズムの解明に成功した。cIAPはE2ユビキチン結合酵素UBE2N依存的に自己ユビキチン化すると共に、標的タンパク質をユビキチン化し、分解に導くことを明らかにした。本研究成果は、抗がん剤および標的タンパク質分解誘導剤の開発に広く貢献することが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
現在まで、プロテアソーム相分離とユビキチンコードの解析を着々と進め、順調に進展している。これら双方の知見を併せて、プロテアソームとユビキチンを軸にしたプロテオスタシス制御機構の理解をより一層深めていく。
第一の課題、プロテアソーム相分離については、ATP枯渇で形成する液滴を解析対象に、研究代表者のグループで構築した高度なプロテオミクス解析系を駆使し、不溶性画分のユビキチン化基質を網羅的に解析する。細胞内のATPレベル低下によりユビキチン化基質が相転移し、難溶性かつ細胞毒性の液滴を形成するという仮説モデルの実証を目指す。 また、近年プロテアソームおよびユビキチン化基質の相分離が次々と報告されており、今後も拡大の一途をたどっている。研究代表者は、プロテアソームによるタンパク質分解の阻害が、主に核内でユビキチン・プロテアソーム液滴の形成を誘導することを新たに見出した。予備実験結果から、液滴が下流の細胞内シグナル伝達を仲介することが示唆されており、タンパク質分解が停止した状況でプロテアソーム液滴がどのように細胞機能を制御するのか、その解明を目指す。
第二の課題、ユビキチン分岐鎖については、引き続きPROTACs(Proteolysis Targeting Chimeras)を中心に標的タンパク質分解誘導剤の未解明の作動機構を明らかにしていく。これまで分岐鎖が不溶性アグリゲートの前段階である可溶性オリゴマーの分解を誘導すること、すなわち分岐鎖修飾を制御・操作することでこれらを標的化できる可能性を見出している。標的タンパク質への分岐鎖付加を誘導する化合物の開発をはじめ、不溶性アグリゲートを起因とする疾患の新規治療法創出にチャレンジする。
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