研究課題/領域番号 |
22H00433
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分46:神経科学およびその関連分野
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
坂野 仁 福井大学, 学術研究院医学系部門, 特命教授 (90262154)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
42,900千円 (直接経費: 33,000千円、間接経費: 9,900千円)
2024年度: 12,350千円 (直接経費: 9,500千円、間接経費: 2,850千円)
2023年度: 12,350千円 (直接経費: 9,500千円、間接経費: 2,850千円)
2022年度: 18,200千円 (直接経費: 14,000千円、間接経費: 4,200千円)
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キーワード | 匂い情報処理 / 行動・情動の出力判断 / 匂い地図 / 扁桃体 / 価値付け判断 / 情動・行動の出力判断 / 本能回路と学習回路 / 臨界期の刷り込み / 離乳期の環境順応 / 意志決定の単位としての呼吸サイクル / 嗅球 / 価値付け領野 / 情動・行動判断 / 本能回路 / 学習回路 / 臨界期 / 刷り込み / 匂い地図扁桃体 / 刷り込みと臨界期 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究計画では、入力してくる嗅覚情報の価値付け及び出力判断について解析する。本能回路については、嗅球に存在する機能ドメイン及び対応する扁桃体の価値付け領野、更には、両者を特異的につなぐ僧帽細胞のサブセット同定を行う。学習回路については、匂い地図の情報が房飾細胞によって嗅皮質に運ばれる二次投射について調べる。続いて、匂い情報によって検索される記憶情景シーンに、快・不快を想起させる価値付けネットワークを明らかにする。臨界期における本能判断の可塑的変化については、Sema7Aシグナルによる刷り込みと、オキシトシンを介した誘引的な価値付けの分子機構を明らかにする。
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研究実績の概要 |
高等動物における情動・行動の出力判断は、五感を介した環境からの感覚入力の受容とその情報の価値付けを基に決定される。本研究ではマウスの嗅覚系を用いて、高等動物の意識がどの様に形成され、それによって情動や行動のモチベーションがどの様に発動されるのかの解明を目ざした。 これ迄の当グループの嗅覚研究により、匂いの外界情報は、扁桃体の価値付け領野に直接配信される本能回路と、その情報が以前関連していた記憶情景 (scene) を想起させてそれが好ましいものであったか忌避すべきものであったのかによってその価値付けを判断する記憶学習回路の二本立てで評価される事が判明した。先天的な本能判断は個体や経験には依存せず、遺伝的にプログラムされた種の自然淘汰の結果に基づくもので生物学的には常に正解である。一方、記憶学習判断は個別の個の経験に基づいてなされるもので、一卵性双生児の間でもその判断が分かれる柔軟性を持っている。 当グループでは近年、本能判断が新生仔期及び発達期の環境からの感覚情報によって可塑的に修正を受ける事に着目し、本能判断と記憶学習判断の相補的な相互連携について回路レベルでの研究を進めてきた。本研究プロジェクトでは、新生仔の臨界期 (neonatal critical period) で生じる刷り込み (imprinting) の研究と、それに続く離乳期 (post-lactation period) における環境順応 (adaptation) の研究を進めてきた。本年度は特に、imprinting に必要な価値付けの為の報酬として、母親の存在が必要な事、更には離乳期においてその報酬が同腹仔(兄弟マウス)の存在に置き換わっていく事を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
嗅覚情報は呼気と共に鼻腔に達し、嗅上皮で発現する嗅覚受容体によって検出される。従って匂いの検出・同定は呼吸サイクルの“吸”のフェーズで、一方、価値判断された匂い情報に基づく感情表現や行動の発動は“呼”のフェーズで行なわれる。しかしながら、外界情報による状況判断は他の感覚器官による情報判断も同時に勘案されるため、嗅覚以外の感覚情報判断も嗅覚系に歩調を合わせる形で、入力情報の同定・識別は“吸”のフェーズで、価値判断及びそれに基づく情動形成や行動出力は“呼”のフェーズで行なわれている。当グループでは、森憲作東大名誉教授(生理学)と共同で、一つの呼吸サイクルが一つの情動・行動判断の最小単位 (minimum time frame) になっているという仮説を最近2つの論文にまとめた (Mori & Sakano: Front. Neural Circuits, 2024; Front. Neurosci., 査読審査中)。 次に本プロジェクトでは、新生仔期及び離乳期など早期の発達段階で、外界からの感覚情報により、先天的本能回路の判断が記憶・学習によって可塑的に修正を受けるという、環境順応について研究を進めた。当グループでは発達期に経験した匂い情報は、例えそれが先天的に忌避すべきものであっても、その記憶が好ましい匂いとして想起される事を見出しその分子基盤を明らかにした。本研究で我々は、この正の刷り込みが報酬系を介した記憶学習によるものであると考え、その報酬 (reward) の実体が何であるかを考察した。その結果、臨界期に於ける刷り込み記憶の成立には母マウスの存在が必須である事、離乳期の環境順応には同腹仔の存在が必要となっている事を新たに見出した (Katori et al. 投稿準備中, 2024)。
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今後の研究の推進方策 |
記憶に基く学習判断については、匂いの識別が嗅球上に展開される匂い地図、即ち活性化された糸球体の活性化パターンが、その相対的なトポグラフィーを保存したままAON(anterior olfactory nucleus: 前嗅覚核)に伝えられる事が知られている。令和6年度も前年度に引き続き、この二次元情報の中枢への伝達にかかわる房飾細胞の軸索投射にどの様な軸索誘導分子が関与しているのかについて、背腹軸と前後軸に分けて解析を継続する。次に、外側 (lateral) 及び内側 (medial) の重複マップの異なる役割 (differential usage) について、それぞれの活性化が呼吸サイクルにどう連動しているかを電気生理学的な手法によって検証する。 また今年度(令和6年度)は本研究プロジェクトの最終年度にあたる為、これ迄の成果のとりまとめを行なう。更に本基盤研究(A)とそれに先行した基盤研究(S)及び特別推進研究の成果を総合して一体何が見えてきたのか、という研究成果の意義について考察する。これら研究成果の総括はしかるべき英文誌に総説として発表すべく、その執筆作業を開始する。またplenary lectureを依頼されているいくつかの国際学会において、上記研究成果を積極的に発信する予定である。
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