研究課題/領域番号 |
22H00454
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分50:腫瘍学およびその関連分野
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
大島 正伸 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (40324610)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
42,250千円 (直接経費: 32,500千円、間接経費: 9,750千円)
2024年度: 10,270千円 (直接経費: 7,900千円、間接経費: 2,370千円)
2023年度: 10,270千円 (直接経費: 7,900千円、間接経費: 2,370千円)
2022年度: 11,440千円 (直接経費: 8,800千円、間接経費: 2,640千円)
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キーワード | 胃がん / マウスモデル / オルガノイド / Wntシグナル / 転移 |
研究開始時の研究の概要 |
日本人の胃がん罹患率は高く、転移胃がん患者の5年生存率は6.6%と低い。したがって、転移性胃がんに対する新規治療薬開発のためにも胃がん悪性化進展機構の解明は重要である。胃がんでは、Wntシグナル活性化に至る遺伝子変異は少ないが、半数以上の胃がん由来オルガノイドは外因性Wntリガンド依存的に増殖することが報告された。以上の背景を基盤とし、本研究では個体レベルの研究により、リガンド依存的なWntシグナルによる胃がん悪性化進展機構を解明することを目的とする。そのため、Wntリガンド依存的な新規胃がんマウスモデル、オルガノイドモデルを開発し、胃がんの悪性化進展および転移巣形成機構の解析を行う。
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研究実績の概要 |
東アジアにおける胃がん罹患率は欧米に比較して高く、日本における転移胃がん患者の5年生存率は約6%と極めて低い。そのため、転移性を獲得した悪性胃がんに対する新規治療法開発は喫緊の課題であり、胃がん転移機構の解明を目指した研究は重要である。正常幹細胞の維持に重要なWntシグナルは、遺伝子変異により恒常的に活性化すると、消化管上皮細胞は腫瘍化する。しかし、胃がん細胞ではWntシグナル活性化を誘導するAPCやCTNNB1などの遺伝子変異頻度は低く、半数以上の患者由来胃がんオルガノイドでは、外因性WntリガンドによるWntシグナル活性化が、がん細胞増殖に関与することが報告された。以上の背景を基盤とし、本研究ではマウスモデルおよびオルガノイドを用いた個体レベルの研究により、外因性リガンド依存的なWntシグナルによる、転移をともなう胃がん悪性化機構を解明することを目的とする。そのため、Kras(K)、Tgfbr2(T)、Trp53(P)遺伝子変異と、Wntリガンド発現(W)を組み合わせた新規胃がんマウスモデル、およびオルガノイドを樹立し、それらを用いた組織学的解析により、胃がん悪性化機構を解析する。 これまでの研究により、KTPマウスでは胃粘膜上皮の異形成と限定的な腫瘍性病変が見られるのに対し、WKTPマウスでは浸潤性胃がんが発生し、リガンド依存的なWntシグナル活性化が原発巣胃がん発生に重要である事を明らかにした。さらに、KTPオルガノイドは転移性を獲得していないのに対して、WKTPオルガノイドは脾臓移植により肝転移巣を高頻度に形成することから、外因性WntリガンドによるWnt活性化は、転移巣形成にも重要な役割を果たすことが明らかとなった
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Kras G12D変異(K)、Tgfbr2欠損(T)、Trp53 R270H変異(P)の3種類のドライバー遺伝子変異をさまざまな組み合わせで導入したマウスを作製した。これらのマウスと、胃粘膜上皮細胞でWntリガンド発現するK19-Wntマウスを交配し、各遺伝子変異マウス胃粘膜の病理解析により、以下の結果を得た。すなわち、KTP遺伝子変異マウスでは、胃粘膜上皮の粘液細胞化生と壁細胞の消失に加えて、軽度の異形成が見られたが、腫瘍性変化はほとんど見られなかった。一方でWntリガンド依存的にWntを活性化したWKTPマウスでは、胃粘膜で異形を伴う腫瘍細胞の増殖が認められ、粘膜下浸潤をともなう胃がんを発生した。 さらに、R5年度の研究により、KTPおよびWKTPマウス胃粘膜からオルガノイドを樹立し、それぞれマウス脾臓に移植して、肝転移巣形成について病理学的解析を行なった。その結果、KTPオルガノイドは肝臓類洞に到達しても生着せず、2週間後には腫瘍細胞が消失していたのに対して、WKTPオルガノイドは、肝臓類洞に到達後、線維化をともなう微小環境を形成して高頻度に転移巣を形成した。この結果により、外因性WntリガンドによるWnt活性化は、転移巣形成に重要な役割を果たすことが明らかとなった。そこで、内因性Wntシグナル活性化でも同様の転移巣形成効果が認められるか、検証するために、Apc遺伝子をCRISPR/Cas9で欠損させたKTP細胞(A-KTP細胞)を作製した。これまでに得られた予備的結果では、A-KTP細胞を脾臓に移植しても肝転移巣を形成しないことから、Wntリガンドによる間質細胞への作用が、転移巣形成に関与する可能性が考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、外因性Wntリガンド依存的なWntシグナル活性化は、ドライバー変異をともなう胃粘膜上皮細胞の異形成変化を誘導し、原発巣での浸潤性胃がん発生に重要な役割を果たすことを明らかにした。さらに、腫瘍細胞が血流を介して肝臓類洞に到達した後の、微小環境形成と転移巣形成にも重要であることが明らかとなった。転移巣形成に、腫瘍細胞自身の内因性Wnt活性化が必要かを検証するため、Apc遺伝子を欠損したA-KTPオルガノイドを樹立して検証実験を始めており、R6年度は継続してA-KTPによる転移巣形成能について、移植実験と病理学的解析により検証する。 さらに、これまでのA-KTP移植による予備的結果から、肝臓の間質細胞でのWnt活性化が重要である可能性が考えられたため、WntリガンドcDNAの発現ベクターをKTP細胞に導入し、新たにW-KTP細胞を構築する。そして、KTP細胞とW-KTP細胞をそれぞれマウスに脾臓移植し、肝転移巣形成について病理学的解析を実施する。KTPが転移しないのに対して、Wntリガンドを発現するW-KTPが転移能を獲得した場合、こ外因性Wntリガンドによる間質細胞でのWntシグナル活性化が、胃がん転移巣形成に必要である可能性が示唆され、A-KTP細胞が転移巣を形成しない結果とも一致する。以上は、本研究開始当初は予想していなかった、重要な発見となる。 以上の結果が得られた場合、転移巣間質で実際にWntシグナルが活性化しているのかについて、WKTP細胞の転移巣組織標本を用いた、空間トランスクリプトーム解析を実施して検証する。
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